刺青一代 A

監督 鈴木清順
音楽 池田正義
撮影 高村倉太郎
美術 木村威夫
脚本 直居欽哉 、服部佳
キャスト(役名)は以下のとおり。
高橋英樹 (村上鉄太郎)
→通称・テツ。兄貴。
花ノ本寿 (村上健次)
→父母を亡くしてからは兄の厄介になりっ放し。美術学校に通っているという。
山内明 (木下勇造)
→親方。
伊藤弘子 (木下雅代)
→その夫人。
和泉雅子 (木下みどり)
→その妹。清順美学の洗礼を受けてか、いつもよりも大人っぽく見えるのは流石。
松尾嘉代 (おゆき)
→飲み屋のマダム。
小松方正 (山野千吉)
小高雄二 (江崎修)
高品格 (常吉)
日野道夫 (徳平)
野呂圭介 (清公)
戸波志朗 (留次)
本目雅昭 (鶴松)
小林亘 (正吉)
千代田弘 (善助)
河津清三郎 (赤松重五郎)
河野弘 (黒川)
柳瀬志郎 (朝吉)
荒井岩衛 (三平)
中平哲仟 (権次)
長弘 (政吉)
高橋明 (安蔵)
大庭喜儀 (伊之助)
高緒弘志 (捨吉)
嵯峨善兵 (戸塚岩松)
久松洪介 (及川巡査)
高田栄子 (やり手婆ア)
中庸子、森みどり (女給)
横田陽子 (おとせ)
山口吉弘 (船員)
池沢竜 (沖中仕頭)
刺青のおっさんを背景としたOP。
謡がかかり、クサイ任侠映画みたいな感じで、実際に仁侠映画である。
昭和初年のこと。
鉄太郎、唐突に殺人に躍り出る。
いつ殺人に躍り出るか解らない不条理さが常に付き纏う。
健治も負けない。
調子に乗って銃殺なんてしてみせる。
それを鉄太郎が激怒。
どうするのかというと、鉄太郎自らが罪を被るという。
美術学校の勉強をさせるために。
健治が赴かんとすると、鉄太郎、牢獄の恐怖について語り始める。
そこは冬でも毛布一枚のみ。米かと思ったら小石だった・・・なんてこともざらにある。
そう言って脅して見せるも、健治、どうしても兄を犠牲には出来ないという。
そこまでして勉強する気にもならないとか。
なんならばということで、「逃げん!」という結論に。
何と言う唐突さ加減。
「それならば、、、逃げよう!」先ほどの威勢の良さ、兄貴風なんて何処吹く風。
二人は裏日本に身を染める。そこは港町だった。
早速漁師に声をかけられ、明朝、茲で待っていろと言われる。
いざ、その明朝。昨日あった船のうち真ん中がスッポリ抜けている。
早速の清順美学。茲は美学と言うよりは、清順冗句といったところか。
左右二隻はあるというのに、真ん中の漁師の舟がスッポリない。
同じ場所にて朝を迎える二人。実に過剰なる省略。
どうやら、この手の詐欺は日常茶飯事だとか。
そんなわけで、誰も親身に対応してくれない。
飲み屋に向かい、おゆきにぼやいてみせるも、軽く流す。
あれこれしているうちに鉱山に辿り着く。
素性の明らかで無い者は雇わないといわれた。
みどりや親方の鶴の一声にて採用となる。
ある日、健治が川辺に居る雅代に不意に話しかける。
「その体を一度で良い。見せてください!」と請願。
「私が裸になるのは風呂に入るときだけよ」と言われた。
いざ、その風呂場にて。健治は来なかった模様。
入浴後、庭を覗くと健治が突っ立っていた。どうやら遅刻したようで・・・
一応、裸体は見せてもらえたというのは、翌日に健治の手許にあるスケッチにて漠然と判る。
鉱山の労働者の連中から散々スケッチのことで冷やかしを受ける。
そこへ鉄太郎が割り込み、思わず喧嘩となる。
「健治になんて口の利き方をしやがるんでぇ!!」ってな感じで。
祭りの夜。
ある爺が飲み屋にてふと呟く。昔は自分は八丁鳶だったとか。最近は本物の893が居なくなり、ゴロツキばかり」とぼやく。
そこへそのゴロツキ連中がじわじわと押し寄せてくる。
修羅場の模様はすっ飛ばして翌日に突入。
大喧嘩が行われたであろうことは、鉄太郎のことをばらすゴロツキが傷を負っていることから漠然と判る。
鉄太郎、みどりの世話に川辺でなる。
周りの冷やかしなんてお構い無しのみどり。
雅代を捜す者が。
その雅代、健治と恋仲に陥りつつあった。
いつの間にやらそこまで発展している。
鉄太郎が止めに入る。
健治、「あの人と殺人したこと、追われていることを忘れられるんだ」
鉄太郎の制止がまるで通じない。
本気で惚れてしまった様で。
健治にとって雅代の体は母を思い出す存在であったはずだが。
何者かの手によって鉱山への銃撃が。
その衝撃からか、落盤事故が発生。
そのとき、どさくさに紛れて東映名物波うち画面を挿入するという最高の冗句も披露せられる。
事故は誰かが猟銃を撃ったことで起こったものだという。
内部の者がやらかしたのは明らかだとか。
もめているところ、所長が手配書をばらす。
健治のことで親方から問い詰められる鉄太郎。
雅代の浮気については決してばらさない覚悟のようで。
みどりは鉄太郎を庇わんとする。
鉄太郎、仰々しく刺青を見せる。チャララーン♪♪
「こんな体と一緒になるもんじゃあありませんぜ」と素性を明らかにして去って行く。
鉄太郎、どこぞの倉庫に閉じ込められていた。
健治がやってきて「我侭言って悪かった」と雅代への思いを止められなかったのを詫びる。
脱走せんとすると、親方に見つかり、馘りを言い渡される。
同時に新潟行きを勧める。「契約分の給料だ」と言って銭を恵んでくれる。拳銃をも渡してくれた。陰の温情に密かに感動。
みどりは附いてゆかんとするが、鉄太郎が熱心に制止。
誘惑には乗らなかった。
「尽くしてみせる」と格好を付けているところを制止せられるわけで、なんともやりづらい雰囲気に。密かに不条理な展開。
新潟に渡る直前、雅代に会いたいと言い出す健治。
鉄太郎は熱心に説得。
健治、「もう一度だけわがままを!!」
結局は行かせてやる鉄太郎だった。
待っている間、変な893が船の置いてある海側へ忍び込む。
身を潜めた瞬間、「うっ!」という叫び声が。
海が血で染まる。
鉄太郎が死んだと思ってしまうが、全く関係の無い平893である。
どうやら清順冗句の一環だったようで。
その頃、みどりは雅代に鉄太郎に会いたいと駄々を捏ねていた。
健治は雅代に惹かれ、みどりは健治に惹かれているというなんとも奇妙なる関係。
普通は上同士、下同志、、、としたいところだが。
鉄太郎は平然と待って居た。あの平893の餌食は喰らわなかったらしい。
健治、初めに騙された与太者との一行に出会い、追っかけられる身に。
瀕死の状態にて雅代のところへ。どうやら与太者一行にボコボコにせられたんだなということがわかる。
兎角、省略が余りにも大胆で「いつの間にやら」が多い。
修羅場を見せず、その結果を描いて見せることで行間を想像させる設計になっている。
効率と効果を満たす珠玉のアイデアであろう。
どうやら親方と雅代は誰かさんに囚われの身になっていたようで。
健治、啖呵を切ったは良いものの、いともあっさりと斬られる。
赤い照明がじわじわと。
血の色を物凄く鮮明にしているところが特徴。
全く映画らしくなく、明らかに照明とわかる大胆さを以て血の流れを表してみせる。
健治が壮絶なる敗北を遂げたことが判り、そのように錯覚する。
鉄太郎はおゆきのところに身を寄せていた。
外に出ると健治が丁度啖呵で運ばれる所だった。
わがままを詫び、「満州へ行こう!」と言ひ遺して死す。
顔面には大きく斬られた跡が。
これで鉄太郎は独りきり。
何故かもらい泣きする周りの与太者。
その場で羽織を脱ぎ捨て、怒りを顕わにする鉄太郎。本領発揮と言ったところ。
舞台みたく大胆に場面転換が行われ、赤い照明が赤々と照る。
大胆なる場面転換と照明の用いっぷりと音楽により、鉄太郎が本来の893の血を滾らせていると錯覚する。
何とも巧妙なるやり口だ。
出かけるとき、おゆきから刀を頂戴する。益々闘志を奮い立たせる。
そんな格好の良い場面を展開しつつ、現場へ向かう途中、どこぞの小父から傘を貰う。丁度雨の降ってきたところだからと言うことで。「こんなもの要らない」と格好つけず、きちんと用いるという可愛らしさをも見せる。
カラフルなる壁の屋敷内にて大乱闘。刀と銃を持って大暴れ。
親方と雅代を救うために。健治の仇を討つために。向かう所敵なしといった威厳を容赦なく見せる。
悪の頭領とは雷雨の中でタイマン勝負。
丁度良い所で雷雨になるという。これは完璧演出上の洒落心だが。
ラスト、着物がちぎれる。刺青がむき出しに。相打ち状態になった模様。
翌朝、浜辺に健治の墓が。
「俺たちは逃げ回らなくても良いんだな。健治は天国、俺は監獄」という鉄太郎のナレーションが。
ありゃ、鉄太郎、普通に浜辺に立ってたそがれている。
丁度みどりと別れるところだったみたい。
「次に会えるときはコイツをきっぱり捨てたとき」と花札を散らかす鉄太郎。
そうして警察に連行せられた。
後姿を目にして泣き続けるばかりのみどり。
海がエンド背景。
一見地味な映像に見えるが、クライマックスに近づくにつれて美学が次第に目覚める形をとり、殴り込みせんとする段階にて一気に美学開眼といった形を採っている模様。
最後に溜めているだけあって最後に魅せる影響力は相当の威力がある。
どちらかというと、美学よりも冗句の部門を楽しむ一本か。
殺人ごっこをしているのかと思っていたら、本当の殺人だったという冒頭の不条理さ、大胆不敵の省略などなど。
健治に駄々を捏ねられ、「よし、逃げん!」とあっさり方向転換する鉄太郎の姿勢はどうかと思うが。
7.814点。
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