月下の若武者 (モノクロ) C
監督 中川信夫
撮影 伊藤武夫
音楽 菅原明朗
美術 高橋庚子
装置 岩上源一郎 福島留八
録音 宮崎正信
照明 井上栄太郎
脚本 八木隆一郎
キャスト(役名)は以下のとおり。
長谷川一夫(由良ノ三郎兼盛)
丸山定夫(各務ノ十郎保盛)
花井蘭子(桔梗姫)
竹久千恵子(小萩);出なかった様な。。。
大川平八郎(秋一)
深見泰三(波田塵九郎)
国堂黒天(真刈ノ秀熊)
永井柳太郎(飛田ノ鷲左)
沢井三郎(弓五郎)
沢村昌之助(比古太)
山田好良(岸進五左衛門)
八州光男(筆次)
石川冷(浄六)
山内八郎(久磨太)
花沢徳衛(馬飼ひ)
中村福松(善吾)
谷三平(由太)
井上忠美(雁七)
島津勝次(藤太)
長島武夫(姫ノ従者A)
岡龍三(姫ノ従者B)
大家康宏(部落民)
OPが途切れ、本編が途中から始まっていると言う悲惨な状態。
そこは、無法の極貧地帯の模様で、小判を投げる与太者などでごった返している。
一応、兼盛は月下の影武者ということで一目置かれる存在なのであろう。
登場するときの仕草は明らかに二枚目であるかを前提にしているかのよう。
散々格好つけておきつつ、あっさり与太者に何かを盗まれて慌てふためくのにはギャグと捉えるべきなのか涙すべきなのか、かなり判断に迷う。
茲から一気に兼盛は迷走し始め、兄の保盛が登場してからは、始終兄に負けっぱなしの情けない莫迦にしか見えないのが悲しい。
何をやっても兄に先手を越されている。
「うまたろうのゲンナリン大冒険」かよ。
最後、兄と一騎打ちし、勝つのかと思いきやいともあっさり負けやがる。「オマエへの成敗は終わった」と言われ、どこかに旅立つ。
ただの情けないわがままじゃねえかよ。
始終こんな感じ。英雄と称するには余りにいただけない。
トホホな無責任野郎にしか見えず、全く共感できない。
桔梗姫の登場の仕方もよくわからない。始終黙りっぱなしで、兼盛は何かをしてやらんとあれこれ振舞うのだが、さっぱり通じていない。
さっぱり成功しない「笑わせましょう」みたいなもの。限りなく退屈な回を見せられている気分。
桔梗が何かを発さんとするところで屋敷が燃える場面になってはいなかったろうか。
可也の驚愕。
「再編」と上述したとおり、OPの東宝マークは戦後のもの。GHQによってずったずたに切られたのであろう。見事なるまでの切られ方だ。何だか嫌がらせとしか思えない。
元は81分だったらしいが、現在視聴できるバージョンは59分。切られ方が相当酷く、実に運の悪きことに核となるストーリーを中心に切られたのであろう。
今となっては、兼盛の勘違いぶりを失笑するというくらいしか楽しみ様が無い。
兎にも角にも頭の痛くなる一本。
東宝京都撮影所はB級・三流映画を押し付けられていたらしいが、斯くも無残な駄作を押し付けられるとは。
どこぞの侍が目当ての人を見つけ、睨んでいる。
そのさまを表すのに暫し無音状態にしてみせるという演出は斬新さと監督の冴えが垣間見られた。
1点。
エノケンの森の石松 (モノクロ) B
前代未聞の駄作「月下の若武者」の次が此方らしい。
監督 中川信夫
口演 広沢虎造
原作 和田五雄
撮影 唐沢弘光
音楽 栗原重一
美術 北猛夫
録音 安藤重遠
脚本 小林正[脚本]
キャスト(役名)は以下のとおり。
榎本健一(森の石松)
→片目のようで。
鳥羽陽之助(清水の次郎長)
浮田左武郎(大政)
松ノボル(小政)
木下国利(吉五郎)
柳田貞一(小松村の七五郎)
北村武夫(身受山の鎌太郎)
小杉義男(都鳥の吉兵衛)
斎藤勤(弟常吉)
近藤登(同梅吉)
梅村次郎(石松の父親)
宏川光子(お夢)
竹久千恵子(お民)
柳家金語楼 (江戸ッ子留吉)
虎造の口演が始めに長々と挿入せられる。
どんなに堅苦しい話なのかと思いきや・・・
本編に入った途端、軽々しいいつものエノケン調に。
兎角エノケン、喋りっぱなし。
昭和10年代でこのテンポ、なるほど永年に亘り評価せられる価値はあるやもしれない。
早くて何を言っているか判らない内容もしばしば。
これ、虎造の口演は不要では。
余りにエノケンと雰囲気が異なりすぎる。
虎造を呼んでくるのではなく、そのままエノケンの口演にしたほうが面白かろう。
あの微妙な音痴が存分に生かせると思うし、ミュージカルの箇所にもすんなりつながると思うし。
ラストは講釈師の格好のエノケンが登場。絶対にエノケン本人による口演にしたほうが面白いでしょ。
舟の上では留吉と大口論。
そんな最中にも駄洒落を飛ばすのを忘れない留吉が面白い。
駄洒落が面白いのではなく、あの情況の中で駄洒落を飛ばすというその姿勢が面白いのだ。
何故か「国定忠次」と勘違い。
「国定の次郎長」ってなんじゃそりゃ。
乗っけていた鶏を誤って逃してしまうというヘマもやらかす。
石松を待つ女、「石松に惚れる奴は余程変わり者さ」と助言せられる。
待ってる女はどないなんねん。
一応、御馴染み清水の次郎長をエノケンがパロディ風に演ったってことなのだが、何だかもう一つ話がつかみにくかったような。清水の次郎長って出てきたかしらん。物凄く存在感が薄かったように思ふ。
エノケン、ラストに突然講釈師の姿で登場、勿論片目姿ではなく、「余りに長くなりました」と旧劇口調で怒鳴り、「次の段にてお会いいたしましょう」とのたまい、勝手に終了。
「余りに長くなりました」って、未だ55分しか経ってへんがな。
どうやら調べる所によると、元は74分だったらしく、少なくとも2巻分は逸失しているわけで、それが原因やもしれないが、にしても各場面のつなぎがどこか整然としないのは是如何。
前回の「月下の若武者」と言い、この時期は中川信夫監督にとって密かなスランプ期だったのかしらん。
この次の「頑張り戦術」は奇跡的な面白さだというのに。
4.7点。
エノケンの頑張り戦術 (モノクロ) AA
監督 中川信夫
撮影 伊藤武夫
音楽 栗原重一
演奏 P.C.L.管弦楽団
装置 吉松英海
録音 安藤重遠
照明 佐藤快哉
編集 今泉善珠
応援 関東水上スキー連盟
製作主任 小田基義
原作脚本 小国英雄
キャスト(役名)は以下のとおり。
榎本健一(稲田)
宏川光子(妻文子)
小高たかし(伜健二)
如月寛多(三田)
渋谷正代(妻武子)
柳田貞一(会社の課長)
柳文代(夫人)
音羽久米子(芸妓菊龍)
金井俊夫(子供誘拐犯人)
基本的に中川信夫の監督したエノケンものは動きの笑いが主流のようで、これはその中でも上位クラスの一本だと思われる。くだらないこだわりの畳みかけが微笑ましく思えてくる。
ラジオ体操第一から始まる。いきなりちゃりんこレースに。
誰が列車に先に乗るかで競走。扉が開かず、あいている窓から飛び乗った稲田。
どうせ車内には誰も居ないんだから・・・
「ご遠慮ください」の解釈を巡って大口論。
三田より良いものを頼む稲田。
お次はトマトかトメトかで大激論。
防弾チョッキのテストにて、ヘマをやらかして上司に怒られる。
馘りに遭いかける瞬間、電話に出る稲田。
引き続き怒られ、馘りに遭いかける瞬間、電話に出る稲田。三田もまた然り。
斯くして上司が喋る機会を無くすわけだ。
長くは続かず、結局は二人とも馘り。その直後にかかってきた電話は、上司の夫人からだった。平身低頭の上司。
稲田の子息だけ海岸に行っていないと言うので行くことに。丁度隣家も行くことになるという「己が罪」みたいな展開となる。
車内にて。二等車、満席で座れない。
三田一家は三等車へ移動。
子、「空いていて良いね」
旅館では、亦も隣同士。「少ないが2円」「少ないが5円」「少ないが10円」
稲田の部屋は一人15円。「・・・安いな」気まぐれ冠者の殿様かよ。
熱い湯に入るとかで大激論。結局は一緒の湯に入る。どれだけ熱いかは、他の客が一瞬で暑がって出てくるところからも明らか。
稲田はトランペット、三田はトロンボーンにて。その間に妻同士は仲良くなる。
夜、稲田が芸者を呼んで大騒ぎ。三田の方も対抗。
実は稲田の方はLPをかけていただけ・・・てなオチ。見た、悔しくなって芸者を皆追い出す。
稲田、盲目のフリをして按摩。「按摩の癖に鈍感」と鋭い突込みを喰らう。
如月にも按摩をお見舞い、気付けへんのかよ。仕舞いには殴りあい。
翌日、海岸にて女のオベッカ合戦。稲田は年増も巧くおだて、三田は若年のみにエコヒイキ。
三田、犯人に襲われる。トマトであるのを認めるのと交換条件に稲田が助けることに。300円を貰った。
本当はトメトというならば「トメイト」と言わねばならず、相対的にトマトが正解にはなる。
そのとき、三田の子供が病気に。妻が何とかするよう掛け合う。
稲田、身を隠しつつ、「大事にしてやれよ」
三田、子供にも「トマトだ」と認める。
帰り、いつの間にやら仲直り。。。。。。。。。。。していない。
妻と子供はすっかり仲良しこよし。
で、どちらが強情かで譲り合い。次第に喧嘩。
稲田は火星の去る、三田は水星の犬、、、、合う訳が無い。
喧嘩の畳みかけはローレル&ハーディっぽい哉。
双方、汽車から落ちての喧嘩。後で汽車を追っかけるも間に合わず。
「を~~い、待ってくれ~~・・・」・・・・・バカ。
8点。
タグ : エノケン
新篇 丹下左膳 隻眼の巻 (モノクロ) A
元は全4編構成で、これはそのうちの第3編だったらしいが、現在ではこの第3編が現存するのみと言う。
監督 中川信夫
原作 川口松太郎
撮影 安本淳
音楽 伊藤昇
演奏 P.C.L.管弦楽団
装置 島康平
録音 片岡造
照明 平田光治
編集 今泉善珠
剣法指導 高須忠雄
殺陣 尾上緑郎
脚本 貴船八郎
キャスト(役名)は以下のとおり。
大河内傳次郎(丹下左膳)
山田五十鈴(お志保)
→丹下左膳を死んだと思い込んでいる。
黒川弥太郎(小田井三之助)
御橋公(吉野屋半左衛門)
高峰秀子(娘お春)
→拗ね虫の模様。
岸井明(手代花吉)
→吉野屋の召使。
小高たかし(丁稚長松)
冬木京三(松平兵部大輔)
鬼頭善一郎(佐藤与一郎)
進藤英太郎(稲葉一徹)
沢村貞子(お富)
永井柳太郎(甚公)
柳谷寛(小八)
鳥羽陽之助(河童吉五郎)
汐見洋(本陣の七右衛門)
丹下左膳がうろたえているところから始まる。無敵のイメージが強い者にとってはかなり意外な始まり。
どうやら片目を斬られ、片腕を切断せられた後らしい。橋の上の決戦にてあっさりやられたのだとか。
どうやら仇討ちに行ったらしい。それが失敗に終わったのだとか。
この新編、丹下左膳の片目・片腕のルーツを1編・2編にて描いていたらしく、この3編は丁度そうなった直後から始まるようであるというのがここから判明。
彷徨いに彷徨い、吉野家、もとい、吉野屋のお世話になることに。
父は素直であったが、その娘・お春が厄介者。兎角拗ね屋らしく、自分の部屋が丹下左膳の治療部屋に充てられたとかで甚く立腹。
なんと言うわがまま娘。
その夜、やられたときのことを思い出す。
お志保のことを思い出す。墓場が重ねて映し出される。自分は亡くなった事になっているらしい。相当やられた模様。
両親の仇を目前にしての敗北。
斬られる場面を思い出した瞬間、起き上がる。
お春、相変わらず無愛想。これが面白みを醸し出している。「丹下左膳余話」の喜代三みたい。茲に可愛らしさが上乗せしては天下無敵。丹下左膳の笑いはフェイントにあるようで。
花吉に辛く当たる。「オマエのご主人だ!!」などと怒鳴りつけるなどして。
お春と買い物に行く丹下左膳。「もっと離れろ」と言い出す。
それまではどないしてたんや。
「離れろ」と言いつつ、「強そうね」
やられたと知ると、「離れろ!」
ある知り合いに出会う丹下左膳。「裏切り者!お前のせいで!」そればかり言われ、結局相手にしてもらえなかった。
裏手でその一部始終を見ていたお春が出てきて、「それでも侍か!!」と檄を飛ばす。
「もう口を利いてやんない!」とお春、丹下左膳は1人で物凄く寂しそうにしていた。それを観たお春、不意にやってきて、「一緒に帰りませう」
突如、丹下左膳の真似を花吉の前で披露するお春。なんじゃそりゃ。
そのとき、1人で丹下左膳は考え事をしていた。
その後、お春の元にやってきて本読みを頼みつける。
ブスッとしつつ、結局は読んであげる。毎度御馴染み、フェイントを活用した笑い。
死を覚悟しているのだろうか。これまでの人生を振り返っているつもりなのだろうか。
その後、丹下左膳の死闘が始まる。今は丹下左膳は片目片腕の凶器と脅してみせる。
元々が続編だったからか、オチは如何にも第4編に任せた感じになっており、尻切れトンボの感は拭えない。
斯くの如き名作になると、欠落が酷くなるのが邦画の悪癖だ。
第3編は残存フィルムではあるが、保存状態が悪いのか、いたるところで場面が唐突に変わったりといったアクシデントが見られる。フィルムが相当に傷んでいる証しであろう。
7.98点。
エノケンの弥次喜多 (モノクロ) A
監督 中川信夫
製作主任 市川崑
原作 波島貞
撮影 友成達雄
音楽 栗原重一
美術 安倍輝明
録音 長谷部慶次
脚本 八住利雄
キャスト(役名)は以下のとおり。
榎本健一(喜多八)
二村定一(弥次郎兵衛)
若原春江(九重姫)
浮田左武郎(蜂須賀弥太郎)
宏川光子(片桐綾野)
宮田豊(弟主馬)
山野一郎(伴団六)
如月寛多(泥鼠の十吉)
高勢実乗(山賊頭山坂地団太)
柳田貞一(医者道竹)
南光一(座頭猿市)
梅村次郎(座頭犬市)
小島洋々(居酒屋の亭主)
御舟京子(お秀)
高峰秀子、堤真佐子、江波和子、清川虹子(町の娘)
いやああああああーーー、これも愉快、愉快、面白い。
OPのエノケンの唄、下手すぎ。それが笑えるのが凄い。
藤純子(富司純子)の下手唄は凄まじく不快感を覚えたと言うのに。
いきなりのおっかけっこ。それがダラダラしすぎて何と言えば良いのやら。
追っかける御用がまたもや鈍感でもう何と言えば良いのやら。
大勢居るから小回りが利いていない。
御用の意味が無いし、大勢来る意味が無い。
風呂に入るにも一々ずっこけるエノケン喜多八。そこに平気で入る弥次郎兵衛。ある種、血も涙もなき行動。韓流も吃驚。
露店にて。
「どんどん喰ってくれ」と言われ、どんどん喰っていたら1000両捕られた。
「どんどん喰ってくれ、助かるよ」と言われたからどんどん喰ったのにね。
無資力に付き、餅つきをさせられることに。
一応、弥次郎兵衛に喜多八、50万両を捜して旅しているわけだが、それどころやあれへん。
その間にも瓢箪がどうしたとかで大揉め。
追っかけっこの間、他の者はせっせ、せっせと餅つきをこなす。この対位法的進行はお見事の一言に尽きる。
瓢箪を子供が売ったとかで大騒動。
急いで駕籠を走らせる。
途中で駕籠とはぐれる。走らせる意味がねぇ・・・
途中、楽器にて台詞を表現する間抜けな演出もあり。
宝探しの時、比叡山の読み方について激論を交わす弥次喜多。
その宝、50万両は山賊頭山坂地団太の所に行った模様。
50万両の壷を掘るよう子分に命ずる地団太。実は足元にあり、実にあっさりと壷をみつける。
初めからテメェで捜せっつーの。
喜多八と地団太、「アノネおっさん、わしはわしじゃ」ばかりで全然話が進まない。
で、アノネ地団太、味方に疑われ、あっさりと壷を弥次喜多に渡してしまう。
「後で山分けしてくれよー」と付け加えたのだが、どうなることやら。応ずるわけ無いよな。
何だか、このアノネおっさんが出てくるとそれだけで妙に観ている映画の好感度が上昇してしまう筆者。
あの大袈裟な悪役風情がたまらない。口調が無駄におぞましいもので、それが間抜けさをより一層醸し出す。
実に不思議なる味わいだ。つまらない駄洒落映画はアノネおっさんで決まり。これにて一気に傑作として昇天できる。
で、
壷を肝心の綾野に渡さんとして落っことす。
堕ちてきた壷を受け取って直ぐに割る。
そこには宝のありかを示す古文書が。
え??本物の宝は井戸の中??
読みにくい達筆がため、改めて何を記しているかが字幕表示せられる。
喜多八が井戸の中に。井戸の中に宝が眠っているからね。
で、宝の中には「おしまい」と書かれた文字が。
おしまい。
7.91点。
虞美人草 (モノクロ) BBB
中川信夫監督初の文芸映画で、戦前最期の作品になるらしい。
全巻残っているようで。
監督 中川信夫
製作 富岡厚雄
主任 森一
原作 夏目漱石
音楽 早坂文雄
撮影 三浦光雄
脚本 桜田半三
キャスト(役名)は以下のとおり。
高田稔(甲野欽吾)
→哲学に嗜みがあるようで、時折遠まわしに皮肉を言うと煙たがられている一面がある。
霧立のぼる(藤尾)
→今年で24歳。
伊藤智子(その母・豊乃)
→欽吾は養子に当たる。
玉井旭洋(宗近老人)
江川宇礼雄(宗近一)
→所謂劣等生。勉強は下っ端、外交官を目指しているが見事落第。落第が一遍だけというのが売りのようで。
どこぞの解説書には「宗 近一」と記しているものがあり、ことあるごとに「近一~、近一~」と解説していて笑える。
花柳小菊(妹糸子);特別出演。当時は舞台に身を移しており、本流新派に居り、「この役は良いこと尽くめだから」として強い出演要請を受け、引き受けたという。
→裁縫に嗜みがある。純朴でやや世間知らずの一面を見せる。
北沢彪(小野清三)
嵯峨善兵(浅井末吉)
勝見庸太郎(井上孤堂)
花井蘭子(小夜子)
→嵐山の置屋にて孤堂に拾われた。
龍崎一郎(一の同僚)
汽車が高原を通り過ぎる。
車内には宗近と欽吾が向かい同士に坐っていた。
あれこれ四方山話に老ける。
食堂車に移動してみんとなり、早速移動。
別の車内では絵本の販売が行われている。そこには小夜子の姿もあった。孤堂と一緒。
二人は出会ったときの話や小野の話をしていた。
宗近、小夜子のことがやや気になっているようで。
欽吾、一家の者に対してはどことなくそっけない。
母・豊乃が廊下を歩いていると、藤尾のピアノの音がする。
藤尾、「宗近なんて、あんな無趣味男・・・」と億劫そう。
その宗近の家では糸子がせっせせっせと裁縫に励んでいる。宗近はごろ寝三昧。
糸子、「そんなに姿勢が悪いから落第するのよ」とやんわりきつい突込み。
今年は不明だと言い張る宗近。
そんなの自慢になるかよ。
「公認会計士」を目指しているようなもんやな。な。
糸子の目から見ると落第は避けられない模様。
ありゃりゃ・・・
ロンドンで買った銀時計は・・・藤尾の好物。鎖がお気に入りだとか。まあ、懐中時計。
宗近が欲しがっている。
「藤尾は行きたい所じゃない」と欽吾。
実際、そのとおりだった。
宗近、「西洋風だな」と関心。
欽吾によると、これからの女は西洋思考になる傾向があるようで。
居酒屋に赴いてみせる宗近と欽吾。
欽吾、嫁を育てられるだけの財力がないということで特に伴侶を授かる気はないという。
藤尾も嫁ぐ気がなさげ。
母は小野を養子に従っているようで。
その小野は小夜子と親しくしておーる。
居酒屋には浅井が割り込んできて色々茶々入れをかましてみせる。
孤堂宅にて、孤堂、琴の音を耳にして京を懐かしむ。
どうも東京は馴染めない場所だという。小夜子、京に帰っても良いとかのたまう。
留守中、小野が来たのを伝える小夜子。用は無かったようで、亦来ると言っていたのを告げてやった。
孤堂、小野の印象がどうも変わりつつあるという。些か心細げ。
その小野は、藤尾の所に居た。
小野、「私は安珍のようには逃げやしません」
藤尾、「私は清姫が如く追っかけまわしますわよ」
ありゃ、母の居る前であの懐中時計を上げんとする・・・も、「止して置きましょう」
宗近、ぐうたら三昧、相変わらず。
そりゃ落ちるわ。
糸子はせっせせっせと裁縫。
父の着物を縫っているという。宗近、些か面白くない。何でやねん。
イルミネーションへ連れてってやると言い出す宗近。糸子、突如陰鬱になり、クローズアップが用いられ、「・・・藤尾は駄目・・・」
藤尾は学が出来て信用ある者を求めているという。
宗近、面白くなさげの表情をしてみせる。糸子、小野のことを挙げて見せた。
「小野と兄なら・・・兄の方が良い。甲野となら・・・知らないわ」
そこで宗近、頭をペシャリ。
その夜、本当にイルミネーションへと連れてゆく。
宗近は三度目なので驚かないのだとか。
糸子は初めてらしく、驚きの連荘。糸子と宗近との間に藤尾が居た。実に冷たそう。
小野、小夜子と孤堂と共に食堂へ居た。
宗近と欽吾は藤尾と糸子と共に然り。偶然の鉢合わせ。
宗近、不意に藤尾に「小野が来てるよ」と振り向かせる。
糸子、「美しい方ね」と純粋に感心。
丁度小夜子一行は帰るところだった。
食堂には外人客も居た。
藤尾、一人面白くなさげで、あちらこちらをキョロキョロ。
小夜子と孤堂、行列に埋もれていた。
移動が大変そう。
翌朝、髪を下げ、藤尾は一応昨日愉しかったと告げる。
楽しみばかりと浮かれる藤尾に、欽吾、「楽しみの多い者は危ないよ」と告げる。楽しみが無くなって死に至るというのだ。
外に出ると小野とばったりの欽吾。博覧会のことをふと告げる。
宗近邸へ訪れる欽吾。糸子が世話。兄・一は散歩だとか。
欽吾、「私も丁度散歩中だ」
糸子、小夜子のことを告げる。憧れたとか。
欽吾、話をしたことは一度も無いという。
糸子に対して「貴女は気楽・・・それで良い」
いつまでもそれであれとも告げる。
糸子は「これは生まれつき。変わり様がない」
糸子、藤尾が羨ましいという。欽吾は「あんなタイプは危ない」
故意をすると変わる。嫁ぐと変わる。嫁入は勿体無い。そんなことを告げるのだった。
孤堂は小夜子が一人になるのが気がかり。それもあり、今頃上京したのだという。
小野が頼りだとか。
小野、怪しげにランプを用意。先生が危なくなっても小夜子の世話はする気でいるという。
肝心の返事、結ばれるか否かの決断については2-3日待って欲しいとのことだった。
豪華なランプが怪しく光る。
豊乃、宗近は及第しないと自信満々。そんな者と結ばれるなんて笑止千万という。
その宗近、糸子の読んでいる書物について冷やかす。恋愛小説か。
よく観てみると、裏には甲野欽吾の判子が押されていた。なるほどね。
ゥエ??及第した??!!
「失敬な!」と怒っとるがな、しかしぃ。
糸子、どうにも藤尾が心配。
一、外交官には藤尾みたいなハイカラな女が必須と言って自信満々。
糸子は欽吾の嫁入を勧められるが・・・どうにも不安。
「私?・・・嫁ぎません」
欽吾は嫁をもらわないつもり。
「嫁ぐと人が悪くなるものでしょうか」欽吾の哲学にまんまと引っかかってやがる。
一、欽吾に打診ってのだが・・・
その欽吾、財産等は藤尾に全て遣ると言っている。その代わり豊乃の世話も頼む。
藤尾、どうしても宗近は厭やと言って聞かない。
小野を好んでいるという。
詩人で高尚、愛を解した温厚なる人格だと褒めてやがる。
「一を褒める者に小野の価値は判るまい」と嫌味返し。
その小野、浅井と共に山道を散歩していた。
浅井に小夜子のことを断るよう頼む。
結婚は一生の幸せを作用する。
博士号を取得するに当たってどうにも不安だというわけだ。
孤堂の世話は生涯すると言うのだが、どうにも半端な決断。
断るのは自分には出来ないので浅井に任せる。
浅井、身勝手な頼みごとにも関わらず、「良心な心がけだ」などとのたまい、普通に引き受ける。
「甲野と宗近にはこのことを話さぬよう」との頼みごとにもすんなり応じた。
ある種無神経男。
宗近、甲野邸にて。
欽吾に「藤尾は駄目だよ」と淡く言われた。
そのピアノの音が鳴り響く。
宗近、ガーンとしつつも、平静を装う。「小野に遣った!」ときっぱり。
欽吾、「母が家を出るなというのは家を出ろという意味だ」この他にも幾ばくかあり、色々逆さに解釈するのだ。一体そんな面倒な解釈をする意義がどこにあるというのか。
表向きは母に逆らい、内面的には母に従う。
それが何の意味を有するのか。
宗近、そんな欽吾に居候を提案。
「糸子の為に来てくれ」というのだ。あいつだけは君の価値を理解している。
糸子と結ばれるのを兄らしく頼み込む。「誠のある女だ」
浅井、丁度孤堂のところへ赴いていた。
「小野は駄目だよ。最近ハイカラです」と尤もらしい否定的意見を並べ立てる。
孤堂、呆然と怒りが入り交ざる。
「小夜子よりも博士が大事か。小夜子は玩具じゃない!」と立腹。
小夜子、陰で泣いていた。丁度裁縫の最中。
浅井が帰ると京調べの琴の音が。
「父さん、京へ帰りましょうか」
「・・・本当に帰るかい」
上京は小夜子の心に傷を入れただけだった。
一、人力車に乗って急いで走らせていた。
小野の所へ向かっていたのである。
浅井に会ってきた??
どうも一、相当浅井を攻め立てたと見える。基本的に人の命令には逆らえない性質のようで。
「この際一度真面目になれ」
宗近老人を孤堂のところに遣った??
15時に藤尾と会う約束を小野はしているという。
小夜子は京へ行く準備を進めていた。
欽吾は荷物整理。糸子が迎えに来た、新婦らしく。
欽吾、「亡父は何も言いやしません」
藤尾は外出中だとか。
駅で小野を待って居たのである。
小野が来て、「今日、大森へ行けなくなった」
約束を守ると大変なことになると言ひ出す。
あの銀時計を藤尾に返した。
甲野邸に一がやってくる。
雨が降ってきた。
欽吾が家を出るかについてあれこれ揉めているところだった。
其処に糸子、「素直に出してあげたら良いでしょ?」
豊乃、「出る出ないよりも出られた側が困る。世間に顔出しが出来ぬ」
どうも世間体の印象というものを母は重視しているらしい。
欽吾に家を出られると世間が自分を冷たい母と蔑視してやりきれないってわけだ。
糸子、「つまらぬ」と呆れていると、豊乃、「世間への義理は大切ですよ」
糸子、「雨降っても小母は濡れませんね」
そこへ藤尾が帰って来た。
銀時計を一に差し出す。
一、「こんなものを貰いにこんな小細工をしたんじゃない!」ときっぱり否定。
しっかりと握り締め、暖炉に入れてぶっ壊してしまう。
今更鞍替えしても根本的な心は変わっていまいってわけだ。
それから暫く経ったある日。
欽吾と糸子が訪れ、自殺したことが明かされる。
遺品としてあの銀時計が置かれていた。
豊乃に「諦めなさい」と冷たく告げる欽吾だった。
それは豊乃への復讐制覇を謳っているかのようでもある。
一は丁度渡航したところ。
同僚と一緒だった。
ポッケに挟んでいた電報を取り出す。
そこには「藤尾 毒死。欽吾」との一文があった。
これにてをはり。
どうも此方は欽吾・一・小野に藤尾・糸子・小夜子の絡みようにスポットを当てているようである。
一のぐうたらぶりは何とも面白おかしい。
それで居ながら勝手に外交官試験に及第するという偶然作用も笑わせられる。
欽吾は哲学者肌で、遠まわしの皮肉が売りだという。この遠まわしようがやや難解。
考えてみれば理解は出来るが、チト話を暗澹とさせているように感ぜられる。
誰かの話題が上ると、その誰かの話になるという運びようが痛快。
あるパートの紹介が為されている途中、不意に別のパートに移り、暫く経つと元のパートに戻るという小気味よさもある。
キャラ作りは実はしっかりしているのだが、どこかクールにまとめすぎで、表面的に情感を出さず、所謂ドロドロを期待していると物足りなさを感ずるやも知れない。
小夜子、小野が自分との婚約を破ったことについて、表向きは嘆かず、京へ帰るという意思の中に暗に含ませているにとどまる。その前からやはり京へ帰るかどうかについて迷っており、小野の婚約破棄にて決意が固まったという運びになっている。
ひょっとするとこのクールさは市川崑に通ずるような、そうでもないような。
宗近老人は小夜子・孤堂の引越しの世話をするのだが、唐突に出現してきて存在意義がちょっぴり掴めない。
藤尾の自殺は茲でも表面的には見せていない。
それから暫く経たせ、恐らく結ばれたであろう欽吾・糸子カップルが自殺のことを告げる形で終わらせてしまう。
豊乃への復讐劇の要素が入っているように感ぜられた。
小野が小夜子を追っかけるのについてはミゾケン版よりも省略が図られており、本当に向かったのかは観客の想像に委ねる形になっている。
6.4点。
とび助冒険旅行 (モノクロ) A
ミュージカル風の冒険ファンタジー。人形遣いのとび助は、母親と生き別れたお福という少女と出会う。彼女の母親は富士に居ると聞き、とび助はお福に同行するが、行く手には様々な妖怪が待ち受けていた。
「子供たちのために夢と冒険とロマンを」とエノケンが製作した作品。
監督 中川信夫
助手 小森白
解説 徳川夢声
画案 清水崑
撮影 河崎喜久三
音楽 早坂文雄
美術 進藤誠吾
録音 片岡造
照明 平岡岩治
編集 笠間秀敏
製作主任 佐々木二良
特殊技術 上村貞男 天羽四郎 黒田武一郎 西浦貢
人形指導 山根龍夫
脚本 山本嘉次郎
キャスト(役名)は以下のとおり。
榎本健一(とび助)
→人形師。勘定の正確さが売り。吃驚すると一々丁髷が上がる。
旭輝子(鬼女)
ダイゴ幸江(お福);子役。これだけに出演。
木場福地(人さらい)
甲斐三雄(ふらふら坊)
久保春二(意地悪兵衛)
生方賢一郎(老主人)
柳文代(妻女)
春山美彌子(踊子)
中村平太郎(毒クモの精)
夢声のナレーションから始まる。
楽しい話、悲しい話、怖い話、どんなジャンルが好きかを問い、この映画はその要素を一まとめにしたことを売りするという。
背景は全てイラスト。人物のみ実物。これだけでギャグが成立している。
出てくる人々も殆どは新東宝畑の無名役者といった顔ぶれ。
新東宝様様である。
とび助は人形師。今日も操り人形を披露していた。見物人の一人におふくが居た。
お福、銭が無いと言い出す。
怒るとび助。見物料を勘定してみると、あらら、16人居たはずなのに13人分しかない。他にも誤魔化した餓鬼が居たわけだ。「どうでもいいや」tなり、お福はひたすら頭を垂れるのみ。
お福がついてくると、とび助、「あっちへ行け!!」
茲は京の郷だが、すっかり荒れ果てている。
お福は戦で家を焼かれ、母をも見失ったという。
とび助は稼ぎに敏感。算数の得意なのが自慢だとか。
お福、怪物に襲われる。
助けに向かうとび助。丁度そのとき、頭を打たれて脳震盪を起こしてしまう。
とりあえず、お福は助け、とび助も一命は取り留めた。どこぞの洞穴にて一服。
あらら、勘定ができない。どうしたのだろう。肩書きと違うではあるまいか。
何が原因かを思い出すとび助。
どうやら、石で頭を怪物に殴られたのが原因と言う結論に至る。
お福によると、頭を治すには、母の居る丘にいうことだという。珍しい果物があり、頭の調子が元に戻るのだとか。
そこに辿り着くまでは沢山険しい所を越えねばならないという。
とび助はどうやっても勘定ができなくなってしまったため、勘定についてはお福が担当するということで役割がまとまり、二人の旅が始まることに。
まずは分からず屋と意地悪坊主。
にらめっこをすることに。
お福が躍り出ると、分からず屋、いともあっさり笑ってしまう。
「子供の無邪気には勝てない」と言い、斃れる。なんやそれ。
その次は、蟻地獄に嵌ってさあ大変。せき止められた水を出すなど、大奮闘。
親切なる宿に泊めて貰う。夜、宿屋の女将が化物に大変身。
あらら、その化物、声が違う。大教授の声をした少年王みたい。
とび助を飛び越えてとび助の前に立ちはだかり、巨大化爆弾にて正体を現す。
お福、「母に会えないのならば死んだ方がまし。喰われるのでとび助を堪忍せよ」と通告。
そういわれると、とび助としては益々助けてやりたい所。
結局はとび助はあっさりやられる。
お福、かくれんぼを提案。木を伝って亘ってみせる。
人食い鬼に「こっちへおいで」と誘い、鬼、見事引っかかる。
木は重量オーバーにて崩れ、あっさり鬼は転落。あっさり自滅。
鬼は退治できたものの、これではとび助と会えない。木が無くなったから。
とび助、崖越しから「会おう!」と叫ぶ。
いざ翌朝、会えない。
いかさま町に辿り着くとび助。悪い人ばかり住んでいるらしい。
「いかさま町」って、何と判りやすい町であろうか。本当にいかさまばかりなのだから。
人形を披露すると、銭を渡してくれない。「あんなつまらないものにどうして!」だとさ。何と憎たらしき子供。
銭の計算をするも、とび助、勘定ができない。
散々銭の計算をさせられ、その隙に「勝手にしろ!」と言われ、去られてしまう。
劇場にてお福の声が。受付爺のいかさまなど気にせずに入場。
舞台では、お福、首出しの芸を披露していた。
舞台裏にて、お福の取り合い合戦が。
取り合いに鳴り、とび助がどさくさに紛れて代行をして見せたり、てんやわんや。
で、脱出後に死の谷へ。巨大蛇が妙にリアル。
夜が明けると、怪物は途端に木や石や怪物に。
暫く歩くと、輝く景色に。母は其処に居た。
「お福と別れるのは寂しい」と思っていたら、お福に誘われた。
とび助も茲の丘に住めることに。
お福は優しき母ととび助の与太話に囲まれ、幸せなる日々を送っているのだとか。
どうやらこれ、子供向けの話らしいが、意外に子供向けと言うことで設定の妥協をすることのない緻密なる構成に仕上がっており、観ているこちらは素直に童心に帰ることができる。実に不思議なる味わいだ。
エノケンの馬力と中川監督の力量の賜物か。
町の名前がふざけすぎ。
「いかさま町」は、その名の通り、悪人ばかりの町だが、単に睨んでいるだけでは。
敵の名前も、そのまんまの名前からふざけた名前まで、多種多様。
夢声のナレーションが面白い。
早口で解説を進め、所々妙なブラックユーモアが入ってくる。
最後、「優しき母ととび助の与太話に囲まれて」と落とすのが面白い。密かなるボケであろう。
で、とび助の頭はちゃんと治療してもらえたのだろうか。
7.468点。
右門捕物帖 片眼狼 (モノクロ) BBB
監督 中川信夫
原作 佐々木味津三
撮影 河崎喜久三
音楽 鈴木静一
美術 梶由造
脚本 豊田栄
キャスト(役名)は以下のとおり。
嵐寛寿郎(近藤右門)
→題名の通り、片眼の右門。潰れていたのだ。
柳家金語楼(おしゃべり伝六)
鳥羽陽之助(あばたの敬四郎)
→御馴染み「アバケー」。
渡辺篤(ちょんぎれの松)
花井蘭子(お吉)
清川荘司(石子伴作)
深川清美(雪姫)
汐見洋(大森頼母)
進藤英太郎(一発屋斎兵衛)
伊達里子(腰元汐路)
杉山昌三九(山形省吾)
中村是好(板場親爺安)
→歴史上の人物を滅茶苦茶に羅列、その後「5番目が柳家金語楼」と、伝六の前にてのたまう。
星美千子(お米)
高杉妙子(お美)
昔々亭桃太郎(仲間元助)
榎本健一(紀の国屋金左衛門);特別出演
→宴の席にてちょこちょこ登場。賑わせ役。
いきなりミュージカルからスタート。お吉が意外にも大健闘。
そのお吉、右門に纏わりつき、睨みつけるのかと思いきや一目惚れだったとか、てんやわんや。
見るからに欲張った内容で、キャスティングを見ても判るとおり、伝六とアバケーが同時出演していることからも欲張りのほどがよくわかるというものである。
伝六が金語楼というのは方向性を間違えているような。もっと早口のキャラクターの方がしっくりくるのでは。
アバケーは印象薄し。殆ど右門独りで走り回っている。
一発屋は右門を捜しているのだが、中々見つからない。目の前に居るというのに。 まとまりのないストーリーだと思っていたら、終盤戦、お吉がスパイだったとかで驚き。右門の片眼は実は変装していただけで、ヅラも着装。それで一発屋一行は見つけられなかったのだが、変装していてもわかるでしょ。
お吉と右門の対決が始まるかと思いきや、ちょっとした隙を突かれ、お吉は逃走。一生の不覚と右門が嘆いていたら、後に自決したと聞かされ、やりきれない思いに。
あれだけ盛り上がっていた宴会場、ラストは塵の山ですっかり廃墟と化す。ふと、太鼓を叩き、お吉がミュージカルにて大奮闘していた姿を思い出す。その様は実に物悲しい。
目的をきちんと果たせず、宴会場が寂寞の場と化したり、片眼が実は嘘っぱちだったり、欲張りつつも裏切りの要素が多く、意外にほろ苦い幕の締め方の一作。
6点。
高原の駅よさようなら (モノクロ) BB
監督 中川信夫
撮影 鈴木博
音楽 鈴木静一
美術 加藤雅俊
脚本 山下与志一
キャスト(役名)は以下のとおり。
水島道太郎(野村俊雄)
→渾名はタンクらしいが、冒頭、池島に一瞬そう言われるのみ。巨漢で一昔前の二枚目像といったところか。
香川京子(泉ユキ)
→薬草採取の最中に勝手にタンクに一目ぼれ。
柳永二郎(池島良寛)
相馬千恵子(三神梢)
田崎潤(戸田直吉)
→ユキとは幼馴染。
南条秋子(伊福部啓子)
→タンクの婚約者。父が病であり、池島はタンクが啓子と結ばれ、父を健康にすべきと考えている。その啓子の父は本編中には登場しない。
岡村文子(タケ婆さん)
→掃除婦。
鈴木俊子
風見章子(主任女医)
小畑実;特別出演。
タンクが池島に会いに病院を訪れる。久々の対面らしく、お互い感無量。
ふと、ユキが出てきて、呆気に取られ、ずっこけるタンク。掃除婦のタケにどやされる。
それが運命の出会いになろうとは。
タンク、池島に結婚を勧められている。啓子との。
そのタンクはユキと遊び戯れている。
病院に帰ってくると、ユキ、主任女医に恋愛禁止を通告せられ、薬草採取を命ぜられる。
あくまでパートナーとしてタンクを扱えとのこと。
タンクとユキ、その通りに採取に向かう。
途中、大雨に遭い、雨宿りの最中に体と体が触れ合い、ついつい魅せられてしまう。
そんなベタベタな展開って・・・
暫くして、雨はやみ、採取が再開せられる。
ユキが調子に乗って森林を走っていたら、タンク、あらら、崖から転落。採取どころではなくなる。
ユキは毎日タンクの知らない間に看病をしているのだとか。
ユキには直吉という幼馴染が居た。直吉、ユキに思いを告白。
「その気持ちは嬉しいけれど」と遠まわしに断ってしまうユキ。
そんな折、池島から「明日啓子が来るぞ」
「ふけゆくあきのよ」のc moll変奏曲が流れる。
笑うべきなのか悲しむべきなのか。
啓子によると、父の容態が益々悪くなっており、自分たちの結婚をいち早く望んでいるとか。
タケ、ユキに「東京人なんて信用するもんじゃない」と慰めている。
え?ユキが疾走、もとい、失踪??一人草原を彷徨っていた。
そこに挿入歌が入り、何だか「愛染かつら」みたい。
タケ、直吉にも協力を要請。進んで応ずる直吉。
ユキ、その頃、思い出の採取現場に来ていた。
最終的に発見したのは怪我が完治したばかりのタンクだった。
入水寸前に発見、、、と思っていたら、ユキ、入水した直後だった??
それとも入水して随分経ってる??
何だか判別に苦しむ。
伊福部、相変わらず結婚を望んでいる。その旨を速達にて伝えてきた。
池島、病床のユキに「タンクは言い出したら聞かない。お前から身を引いとくれ」と告げる。
タンクは、、、
池島、「恩を裏切るつもりか!!」
タケと直吉。
タケ、「あんな男に惹かれたばかりに」と嘆き、直吉に、「今がチャンス。お前がユキを何とかしてやれ。」
直吉、どうしたか。
女医に、こんなことを言い出す。曰く、
「タンクとユキを何とかしてくれ」と。
驚くタケだが、直吉は本気でタンクとユキを結ばせたいと思っている。
嗚呼、何と言う懐の広さ。
タンクはユキに「必ず帰る」と告げるが、ユキはどうにも不安げ。
その後、女医が登場。タンクは必ず帰る、気をしっかり持てと告げる。
元々は恋愛反対を通告していた分際で、何だこの気の変わりようは。
女医の発案により、直吉は馬を用意し、ユキとともに駅に向かう。わざわざタンクを見送るためだ。
「しっかり捕まってろよ!!」と直吉。
そこでまたもや挿入歌。
汽車とともに駅へ到着。
対向式のフォームだったため、汽車に邪魔せられてタンクが見えないということはない。
ユキがフォームに付いた折には、汽車が発車するところだった。
直吉は駅の外にてじっと待っている。
偶然すれ違い、「必ず戻ってくる」とユキに告げるタンク。
おしまい。
出演の面子や雰囲気やつくりや、どこか島耕二っぽい感じ。
所々ぎくしゃくした感じがあり、ユキの恋愛過程がやや唐突に思える。
女医は恋愛禁止を通告した上でタンクと採取に行かせる。
恋愛をするなんてこれっぽっちも気づかなかったのだろうか。
その後、最後になってあっさり鞍替えって・・・
啓子とユキの絡みは特に無かったような。
直吉が、タンクとユキが結ばれないやもしれないところ、敢えて結ばれるよう病院に直訴する様は格好が良い。
保存状態は悪く、音声は聞き取りづらい。
何箇所かつぶれかけていた。
「高原の駅よさようなら」というから、ユキが駈落ちするのかと思いきや、ずっとタンクの帰りを待っているわけで、本当にさようならするのは枠外というわけだ。
「タンク」というのは、野村の渾名なのだが、本当に冒頭にしか用いられない。
一体何だったんだろうか>タンク
5.78点。
江戸ッ子判官 (モノクロ) B
監督:中川信夫
製作:清川峰輔
脚本:三村伸太郎、高木恒穂
撮影:安本淳
音楽:古関裕而
キャスト(役名)は以下のとおり。
大谷友右衛門 (遠山金四郎)
加東大介 (魚屋太助)
千石規子 (女房おはな)
柳家金語楼 (一龍斎虎八)
→寄席にて小咄を披露してみせる。
佐々木孝丸 (水野三十郎)
市川小太夫 (八十川一角)
伊藤雄之助 (閻魔の鬼太郎)
小杉義男 (早瀬辰馬)
岡田茉莉子 (お琴)
沢田清 (戸川政兵衛)
浜田百合子 (茶屋女お蝶)
広瀬嘉子 (常盤津師匠お紋)
中村是好
小市民風情あり、悲恋あり、判官根多あり、寄席風景ありと、欲張りすぎたような展開。
その中、太助とお花のやり取りが胸を打つ。
ある日、商売道具を盗まれたとかで大いに女房おはなにどやされる太助。
これだけでも充分情けないと云うのに、是好の仲裁が頼りないとあって余計に笑みが零れる。
おはなの怒鳴り声が外まで丸聞こえ。
魚屋の文字の入った障子が何とも虚しく映る。
待ち行く父娘が居り、父が「オマエも将来はあんなになるんだよ」とからかってみせるオマケ附き。
一心太助の面目丸つぶれ。
そうあってはならないときたか、酒を口にして関白亭主へと大転身。
盗まれた財布は最後の遠山の金さんご降臨にてあっさりと金さんから手渡される。
忘れかけていた頃だけに太助はほっと一息。
保存状態が悪いのか、音声の聞き取りにくいこと、聞き取りにくいこと。
東宝は大抵録音が下手糞の嫌いがあるが、これはその中でも酷かろう。
音楽はオルガントーンが中心だが、頑張りすぎのような気がした。
録音状態が酷いものは音楽が自棄に目立って困る。
4.33点。
人形佐七捕物帖 妖艶六死美人(モノクロ) C
監督 中川信夫
原作 横溝正史
撮影 平野好美
音楽 渡辺宙明
美術 岩武仙史
録音 根岸寿夫
照明 秋山清幸
製作主任 鈴木義久
スチール 西崎新
脚本 赤坂長義
キャスト(役名)は以下のとおり。
若山富三郎(人形佐七)
日比野恵子(お粂)
杉山弘太郎(世之助)
宇治みさ子(お京)
沢井三郎(粂三)
天知茂(浅香啓之助)
若杉嘉津子(桜田春太夫)
阿部寿美子(花乃屋小扇)
三原葉子(葛野蝶雨)
山下明子(柳橋お駒)
三重明子(宮川采女)
美舟洋子(松葉家花奴)
市川小太夫[3代目](茨木屋鵬斎)
徳大寺君枝(智光尼)
菊地双三郎(坂田陣九郎)
鮎川浩(辰五郎)
小高まさる(豆六)
岬洋二(宗兵衛)
高松政雄(神崎甚五郎)
児玉一郎(荻原備前守)
橘美千子(菊姫)
六美人が鵬斎の描いた屏風絵に対して好き勝手に誹謗三昧、傷つけている。
本人の目の前で。
ありゃ、鵬斎、気を狂わせて娘・お京の制止も効かずに投身自殺。
佐七は間に合わなかったとか。
なんじゃそりゃ。
で、黙々捜査を始めるのは良いのだが・・・
六美人、別の絵師に背中に屏風絵を彫ってもらっていた。
お京、どうにも元気が出ず。
そりゃそうだ。
22分後、初の犠牲者が。
「次は蝶雨」とのメモ書きが添えられていた。
二人目の犠牲者は、大きな蜘蛛の絵が。
「次はお駒」とあった。何者かが忍者姿で登場。
どうやらお京が復讐に躍り出たらしい。そりゃそうだ。
佐七の捜査などお構い無しに次々と犠牲者が発生。
お駒の元に早速・・・と思いきや、追っかけの男二名だった。
テキトーに会話を済ませる。
風呂場に入るお駒。外には按摩が。何か不吉を予感している。
風呂場にていつの間にやら死んでいるお駒。
忍者、「次は采女。。。私の番」などとのたまう。
ありゃ??コイツってお京じゃなかったのかよ。
どうなってんだか。
ワケワカラン。
殺人は次々と行われる。
惣兵衛も犠牲になった模様。「次は春太夫」
用心棒の浅香が何か怪しそうだが、コイツは特に無関係。
采女、師匠の命により、命懸けで追跡していたのだとか。
なんでまた。
ある日、お京のもとに忍者集団がわけもわからずに登場。
夜、佐七のもとにも亦然り。
どうやらお京は囚われた模様。
翌日、花奴が殺されていた。乳を出されかけていた。
「今度こそ花太夫」とのメモ書きがあった。
そんなもん、勝手に順番変えるのも自由やろ、あほ。
六死美人はお京の復讐ではなく、別の手が絡んでいたらしい。
真犯人と思しき男が采女を命懸けで追跡させたとか色々真相を話してくれるのだが、何しろ複雑すぎるし、録音状態も頗る悪くて何が何だかさっぱり不明。
六死美人はというと、別に鵬斎に恨みを買われる様な行動はしていないと無罪を主張。
あれは充分恨みを買われる行動だったと思うぞ。
お京は何も思わないのかね。復讐に出たのかと思いきや、いつの間にやら機嫌を直しやがって。
勝手に丸く収まっているし。
知らない間に海上の剣戟が行われるも、中途半端におしまい。
そんなわけで、どうにも共感しかねる一本。六死美人の死に至る過程がどうにも意味不明だし、真犯人の動機もよくわからない。采女も危険を顧みずになにやってんだかといった印象。
どうも中川信夫って当たり外れが結構出るようだ。
新東宝だけに仕方ないという事情があるやもしれないが。
横溝の原作を無理して70分台にまとめんとしたその方針にも問題はあろう。
1.78点。