右門捕物帖 片眼狼 (モノクロ) BBB
監督 中川信夫
原作 佐々木味津三
撮影 河崎喜久三
音楽 鈴木静一
美術 梶由造
脚本 豊田栄
キャスト(役名)は以下のとおり。
嵐寛寿郎(近藤右門)
→題名の通り、片眼の右門。潰れていたのだ。
柳家金語楼(おしゃべり伝六)
鳥羽陽之助(あばたの敬四郎)
→御馴染み「アバケー」。
渡辺篤(ちょんぎれの松)
花井蘭子(お吉)
清川荘司(石子伴作)
深川清美(雪姫)
汐見洋(大森頼母)
進藤英太郎(一発屋斎兵衛)
伊達里子(腰元汐路)
杉山昌三九(山形省吾)
中村是好(板場親爺安)
→歴史上の人物を滅茶苦茶に羅列、その後「5番目が柳家金語楼」と、伝六の前にてのたまう。
星美千子(お米)
高杉妙子(お美)
昔々亭桃太郎(仲間元助)
榎本健一(紀の国屋金左衛門);特別出演
→宴の席にてちょこちょこ登場。賑わせ役。
いきなりミュージカルからスタート。お吉が意外にも大健闘。
そのお吉、右門に纏わりつき、睨みつけるのかと思いきや一目惚れだったとか、てんやわんや。
見るからに欲張った内容で、キャスティングを見ても判るとおり、伝六とアバケーが同時出演していることからも欲張りのほどがよくわかるというものである。
伝六が金語楼というのは方向性を間違えているような。もっと早口のキャラクターの方がしっくりくるのでは。
アバケーは印象薄し。殆ど右門独りで走り回っている。
一発屋は右門を捜しているのだが、中々見つからない。目の前に居るというのに。 まとまりのないストーリーだと思っていたら、終盤戦、お吉がスパイだったとかで驚き。右門の片眼は実は変装していただけで、ヅラも着装。それで一発屋一行は見つけられなかったのだが、変装していてもわかるでしょ。
お吉と右門の対決が始まるかと思いきや、ちょっとした隙を突かれ、お吉は逃走。一生の不覚と右門が嘆いていたら、後に自決したと聞かされ、やりきれない思いに。
あれだけ盛り上がっていた宴会場、ラストは塵の山ですっかり廃墟と化す。ふと、太鼓を叩き、お吉がミュージカルにて大奮闘していた姿を思い出す。その様は実に物悲しい。
目的をきちんと果たせず、宴会場が寂寞の場と化したり、片眼が実は嘘っぱちだったり、欲張りつつも裏切りの要素が多く、意外にほろ苦い幕の締め方の一作。
6点。
旗本退屈男 謎の珊瑚屋敷 BBB
中川信夫特集が組まれると、必ず上映せられることの無い一本だという。
監督 中川信夫
原作 佐々木味津三
撮影 三木滋人
音楽 山田栄一
美術 塚本隆治
録音 堀場一郎
照明 田辺謙一
編集 宮本信太郎
スチール 熊田陽光
脚本 結束信二
キャスト(役名)は以下のとおり。
市川右太衛門(早乙女主水之介)
沢村訥升(霧島京弥)
北条喜久(菊路)
渡辺篤(笹尾喜内)
堺駿二(伍平)
品川隆二(鉄砲玉の勘吉)
→早乙女の子分みたいな存在。お喋り。
水谷良重(お良)
→「およし」と読むらしい。
北沢典子(おしま)
小畑絹子(お染)
石黒達也[俳優](十文字屋銅右衛門)
坂東好太郎(葛生源十郎)
本郷秀雄(清兵衛)
沢村宗之助(西海屋市兵衛)
東千代之介(檀造酒蔵)
吉田恵利子 (いかさまお仙)
山波新太郎 (立ちん棒の大八)
有馬宏治 (万五郎)
北沢典子 (おしま)
小畑絹子 (お染);小畠絹子
西崎みち子 (お梅)
松川純子 (お咲)
長島隆一 (直吉)
五里兵太郎 (伝吉)
宍戸邦博 (定吉)
永井三津子 (お春)
三沢あけみ (お夏)
久我恵子 (おくに)
瀬川路三郎 (鮫五郎)
楠本健二 (鉄五郎)
国一太郎 (赤滝十兵衛)
仁礼功太郎 (大内主膳)
丘郁夫 (同心)
長田健二 (目明し)
OPは何故かクラシカルなワルツ調。
本編へ。
勘吉があれこれ街中を彷徨っている。
その後、早乙女の部屋へ。お良と仲睦まじく。
暫くして勘吉がやってくる。ずっと捜しとったんかい。
その初めのくだりは馬鹿馬鹿しさが全然に出ていて面白い。
勘吉、これやったらおまえお喋り伝六やないけ。
これやったら右門捕物帖やろ、あほ。
早乙女退屈男、文字通り退屈そうで実に笑える。勘吉が可也億劫そう。
勘吉の空騒ぎが虚しくこだまする。
早乙女、なるほど、衣装変わりすぎ。
1分で変わっていることも。お出かけ先でかわることもしばしば。どこにそんな荷物を入れてんだか。
そこだけは充分すぎるぐらいに活発男。
早乙女、お琴を演奏してもらっている間、ぐっすり居眠り。
後で豪い怒られた。
そんな最中、抱き合い心中事件が。
お染とお良の父だった。江戸中の噂に。
早乙女がやってきたこともあってか、余計にだという。
早乙女、オマエお良と遊んでばかりやないけ。
一応、女好きのようだ。
立ち回りになると本気を出してお良を唸らせる。
お良の父、お染と心中でない。他殺だという。
真相は話せないのだとか。
おしまに詰め寄る男。
「味方は俺だけ。父を殺したのは十文字屋と清兵衛だ」
そいつらは目前に居り、男を気絶させる。
あらら、清兵衛、殺された。
浪人が何事も無くいきなり登場。
抜き打ちを早乙女にかけてくる。
浪人の前でお良は堂々としている。
浪人、「あんなに莫迦にせられては斬られない」
なんちゅー言い訳や。
そういや、勘吉、ある時点を境にさっぱり姿を消し去ってしまったような。
茲から本格的にパワーダウン。
事件解決したかもよくわかんね。あの浪人は要らなかったのでは。
浪人を削除して勘吉の出番を多くすべきだったと思う。
断片的に観れば中川信夫の冴えを充分に堪能できるのに、まとめ方が悪くて損をしてなってしまった一例か。
何だか勿体無い気がした。
少なくとも「月下の若武者」よりは、、、何倍増しかねぇ。
ラストは退屈男らしい幻想的なまとめ用。
「15代目の声がするぜ!!」(byKAGE??)と叫んだところで、レビュー、おしまいだぜ!!
6点。
進軍 (無声) A
英語の題名は「マーチ・オン・マーチ」?!
監督:牛原虚彦
原作 ジェームズ・ボイド
翻案・脚本 野田高梧
応援 野村員彦;野村浩将
空中撮影技術指導 鈴木重吉 増谷麟
撮影 水谷文次郎
空中撮影 越智健次 青木勇 高橋与吉 小倉金弥
応援撮影 桑原昴 長井信一 猪飼助太郎 杉本正次郎 武富善男
撮影補助 星野斉 山田吉男
撮影事務 平賀義敏
キャスト(役名)は以下のとおり。
鈴木伝明(篠原孝一)
藤野秀夫(父・庄作)
鈴木歌子(母・おとき)
田中絹代(山本敏子)
武田春郎(父・博之)
高田稔(兄・史郎)
押本映治(大和田飛行士)
小林十九二(小林中尉)
横尾泥海男(串木熊吉)
青山万里子(お島ちゃん)
吉川英蘭(山本家の運転手)
小藤田正一(村の少年)
吉谷久雄(郵便配達夫)
坂本武(将校A)
→鬘を付けているのがまるわかりで、笑える。鬘を付けているだけで笑える。
渡辺篤(将校B)
→青芝フックみたい。
ノンクレのキャスト(役名)は以下のとおり。
青木富夫、菅原秀雄?(村の少年)
花岡菊子?、高松栄子? (女中)
日守新一?
タイトルを観ると、如何にも国策映画みたく思えるが、おそらくこれは国策ものではない。
この頃はそれほど第二次世界大戦の危機感は募らせていなかったはずである。
この辺りを踏まえていないと、相当なる火傷を負うことになる。注意を促しておきたい。
これは架空の物語なのか。
恐らく架空の戦争絵巻であろう。
敢えて何をモデルにしているのかと言うと、筆者は第一次世界大戦のことではと睨んでいる。
それから10年後、世界恐慌がやってきて日本は不幸のどん底に陥ってゆくわけで、臣民に第一次大戦の勝利を思い出させ、昂揚せしめるという意味合いに於いては国策映画と言えるやも知れない。
鑑賞前にかくの如き戦術を述べるのは、冒頭が今一つ不明だからである。
冒頭、コンサートの風景から始まる。
指揮者に孝一。
どうやら空軍の軍歌の演奏なのだろうか。
背景は空軍の風景である。
頁を捲り、演奏体制に入らせる孝一。
暫くして、田舎の場面へ。
恐らく、茲は在りし日の自分を思い出しているということなのであろう。
その自分は、飛行機に憧れていた。ただ、憧れていた。
田舎にて百姓仕事に勤しんでいたときのこと。
突如、飛行機が落ちてきた。
どうやらエンジン故障にて不時着したらしい。広い田園地帯ならば安全と言うことなのであろう。
孝一、すっかり夢中になる。名刺を貰った。
「大和田飛行士」とある。
尾翼を収めるよう指示を受けるのだが、意欲が空回りしてしまい、全然収められない。
大和田、さっさとマイペースにて飛行してしまった。
そんな時、誰かが叫んでいる。どうやら山本家の運転手らしい。
荷物を置いているとかで簿y炊いている。
庄作がやってきた。
「どこへ置こうが此方の勝手だ!」といって聞かない。
早速喧嘩が始まる。口の聞き方が無いって居ないとかで散々悪態をつく小策。そりゃ相手も怒るって。そこへ敏子がやってきた。思わず後ろの席から駆け出し、運転手を宥める。
丁度、孝一がやってきた。「車をさっさとどけりゃあいいじゃん」とあっさり宥める孝一。早速どけにかかる。「あっかんべー」をして立ち去る運転手であった。
あらら、問題は終わらなかった。
鶏を轢いてしまったのだ。庄作、激怒。
「掛け合いに行く!」と言い、同情することに。
結局は孝一が赴くことになった。
運転手、流石に落ち込んでいる。
孝一、どうするのかと思いきや、父のことをきっちりと話し、途中で降りてしまう。
根は良いのだが、どうも頑固者で直情径行で困っているのだという。
孝一も大変だなこりゃ。
ま、それが運命の出会いとなる。
双方僅かににやけ顔をしていたのが注目すべき箇所。
孝一、子供たちにヘリトンボを使って遊んでいた。
アララ、敏子の馬が暴走。子供がそれを報告。
早速突撃。神業ともいえる手法にて抱き上げ、無事に帰還する敏子。
奇跡過ぎる救出を成し遂げた。
流石は専門の農夫。何も見返りは求めないところも格好良く、日本男児を思わせる。
一応、珈琲をご馳走してやる。
敏子、ヘリトンボに夢中に。
「あたしも飛行機大好きなのよ」の一言に昂揚する孝一。
こりゃ、喜ばないわけには行かない。
なんだかんだ言いつつも、結局は創ってやることに。
敏子のことばかり考えている。結構手間がかかるのね、ヘリトンボ。
兄の職務にどうやら釣られたらしい。初めは作る木が無かったのにね。
今夜は徹夜の模様。特に気合を入れて創っている模様。敏子の幻影に挨拶をする孝一。
気合を入れて挨拶の練習をしているのを父母に見られ、大層詰られる。
こりゃ「ビューティフル・マインド」だな。
父、次々と詰る。母は無言。
孝一、山本家のことを言わねばとおもってのか、そうそう真相を明かせない。
相当父は頑固者らしく、とことん直情径行。
父、模型を壊しかける。
こりゃいかんと、従うことに。
実は寝るフリであり、母に「頼むよ」と頼むのであった。
無事、模型は完成した。
飛行実験を始める。取りに行くときに、躓いて怪我してしまう。
そんな、ちょっとした愛のひと時。
外国の飛行機の本を貸してもらうことに。
思わず夢中になる孝一。
父と、詰まるか否かを巡って口論。
そんな時、軍隊が通りかかる。
「開戦したらどうする」と父。
丁度、山本家は宴が開かれていた。
焼香、早速孝一を冷やかしにかかる。
宴の席では、小林と敏子が仲睦まじげ。
孝一、何だか面白くなさげ。真剣。
小林に上京するようからかわれる。焼香2名が更に悪乗りする有様。
上京するには銭が要る。水呑百姓の身ではそれはままならない。
敏子が気を遣うも、プライドだけは一人前の孝一、それを払いのけてしまう。
夜、思わず状況の許しを請う。将校を見返してやりたい。あれこれ熱き思いを語る。
父、珍しく乗り気。「丘の邸」が引っかかったのであらう。シミジミ心を打たれる母。
上京の一報は、敏子の元にも届く。
既に船にて出発した後だった。深く悔いる敏子。
孝一、あの大和田の名刺を大切にしまって置いたらしく、それを取り出し、希望を胸に膨らませる。
早速訓練施設へ。熊吉と早速親しくなった模様。熊吉、如何にも鈍感。
お互い、飛行機に乗せてもらえないもの同志というつながりの友達らしい。
をいをい、熊木千代、孝一は入りたてなんじゃけん、乗せてもらえなくて当たり前やろ。流石は熊吉。それが嫌味にならず、笑えるところが泥海男の凄味。
初飛行の知らせを受け、喜ぶ孝一。熊吉、その気になる。
あらら、どちらが初飛行かで揉めあい、じゃんけんで決まることに。真ん中で大和田が呆れている。孝一も熊吉に乗せられるのが凄い。二枚目が落ちこぼれにのるというところが面白い。
で、何故か負けてしまう孝一。熊吉のチョキで負けたのだ。
お島、物凄く喜んでいる。熊吉と恋仲なの念。
熊吉、孝一に対してチョキを強調する。大爆笑。
飛行中、応援するお島。「早く落ちよ」とからかう孝一。
何だか物凄く低空飛行なのだが。大丈夫か、をい。
終了後、熊吉はクッタクタの表情で、「とても愉快だったよ」と答える。この時点で神様決定だ。
愉快すぎて天まで昇りそうだよな。思わずスクリーンにそう突っ込んでしまった。この一言、活弁のときの名文句になるかも>愉快すぎて~。
物凄く酔っており、お島に物凄く世話してもらうことに。
暫くして、養成所の中では孝一が最も美しくて有望と言うことに。
あの史郎が居る。感慨深げな様子。
孝一、未だ真相は話していない。何をや思い悩まん。
熊吉、おんどれは何の悩みがあんのや。
お島と熊吉の、実に冴えないなんちゃって悲恋物語。これがこの物語の最大の見所。もう、泥海男御大、最高。泥海男ファンで間違っていなかったと実感できる。
ふと、故郷を思い浮かべる。
孝一、手紙を送っていた。12月に上空を飛ぶのだとか。村中が大喜び。期待の星なんやね。
庄作、「丘の邸だけには知らせないでくれ」
誤解は解けないまま。
その翌日、敏子、ある飛行機を目撃。あの宙返りは史郎ならではと言う。
村人、その飛行機を孝一のものと思い込んで応援している。父が宙返りに戸惑っている。
運転手の証言により、あれは孝一のものだと判明、慌てる敏子。
一時的に着陸し、挨拶する孝一。時間が無いらしい。「誓いの休暇」かよ。
群衆に敏子が到着。思い切って出発してしまう孝一。父が「行け!」と促し、敏子を制止している。
思いを伝えられない敏子。「陸軍」のラストはこの呼吸を意識しているのだろうか。
熊吉と孝一、召集令状を待ち焦がれる段階に。熊吉、「お島との別れが辛いよ」
どうやら、実家に令状が届いたらしい。いざ来ると、心許なくなる。母には隠してあると父の手紙にはある。
早速宣戦布告が。母、孝一の下に赤紙が来ていないのを不思議がる。
孝一が帰郷してきた。感慨深げな父母。孝一、模型のことを懐かしむ。
孝一、母に老眼鏡を贈呈。令状のことは気づいていた模様。これが別れの挨拶。
孝一、父母、涙ぐむ。
夜、ふと、邸の上を訪れる。結局は会わずじまい。敏子、自らの招いた誤解を悔やんでいる。
自らが誘わねば、この道は、、、とも言いたげ。
軍隊でも熊吉と一緒になったのか。あの小林中尉が居た。
最後の別れだと史郎に告げている。
出征の朝、皆が別れを告げている。日の丸の旗が何とも哀しげ。
熊吉はお島と別れを告げている。
これなんだが、二人は孤児との解釈も出来なくは無い。
親に見離されている落ちこぼれなのか、孤児同士として仲が良いのか。
結構一筋縄では行かないのだ。
敏子、遠慮した。
結局誤解は史郎が解くことに。「兄としての願いだ」と孝一に告げる。
「立派に戦い、立派に勝て」
いざ、進軍。
「進軍」の文字があちらこちらに登場。
軍隊やら、戦車やら、空軍機やら、徒歩の兵隊やら、軍馬やら、勇ましき攻勢。
戦争描写は陸軍関係者の協力を得たとかで迫力そのもの。
当時最大限の特撮技術を用いているのであらう。
何と、あの大和田が戦死したらしい。そう熊吉が告げる。
熊さん、凛々しくなってもおっちょこちょいの一面は変わらず。
航続不能になった仲間が居たらしく、必死に「安心しろ」と告げる孝一。驚異の特撮が冴える。
大和田を撃退しただけあってか、可也手ごわそう。
史郎も亦やられていた模様。
着陸すると、遺体がちらほらと。
愕然とする孝一。何とか史郎だけは救いたいと思ったのか、爆撃の中、必死の逃亡を繰り広げる。
爆撃に遭う車。
戦車は使えない、馬も死ぬ、てんやわんやの逃亡劇。
何とか収容所にたどり着く。その前に熊吉が抱きかかえられていたのだが、突如消えてしまう。自分で収容所に向かったということなのだろうか。
小林は、収容所の中に居た。あの憎き小林は無残にも瀕死の状態。
煙草を渡す孝一。「ありがとう」と小林。それが最期の言葉となった。
小林の最期を表すのに、十字架の炎を並行して映しているところに注目。虚彦マジックの表れである。
最後はハッピーエンドなのだが、主人公一派がハッピーエンドと言うのにはどうも物足りなさを感ずるし、国策の匂いも感じてしまう。
この話は、初めにオチを提示しており、バッドエンドには出来ないという宿命があるのだが。
冒頭の音楽会の場面は、筆者はその後の人生と捉えている。
汽車に乗っている場面が最後の場面なのだが、これは孝一が演奏会場に向かわんとするところなのだろうか。
現在、これが弁士付にてどこかで公開せられているらしく、如何なる解釈がなされているのか興味深いところ。ご存知の方はご一報いただけると幸甚に存ずる。
7.816点。
若者よなぜ泣くか (無声) AA゜
同年度キネマ旬報ベスト 第2位入賞とのこと。
アメリカ・ハリウッド映画がごとき明るくモダンなストーリーをば軽快なるテンポで描くことを売りとする。
当時の若手スター・鈴木傳明主演の『恋の選手』(大正14年)が爆発的ヒットとなった牛原虚彦監督は、以降続々と傳明主演の明朗快活な青年像を描いた作品を発表し、青春映画の原型を創る。これらの作品は“虚彦=傳明映画”と呼ばれる程の人気シリーズとなったようで、本作はその第19作であり、最後の作品にあたるそうだ。同時に虚彦監督にとっても蒲田最期の作品となったようで、昭和8年までメガホンは撮らなかったらしい。
内相・上杉毅一は、一男二女の父とはいえ妻に先立たれた寂しい身であり、若く美しい妻・歌子を迎えることになった。茂が大学の休暇を利用して帰郷すると、歌子は傲慢なモダン・ガールで、長女の二葉とは気が合うが、おとなしい次女・梢とはしっくりいかず溝ができていた。毅一が病床についているにもかかわらず乗馬に出かける歌子と二葉。継母に理解を示してきた茂もさすがに憤慨し、梢を連れて家を出た。
何と、鑑賞時間は162分である。如何なる事態に陥ることやら。
監督:牛原虚彦
原作:佐藤紅緑 ;文豪
脚色:村上徳三郎;長編小説の脚色を得意とした。
撮影:水谷至宏
応援撮影:高橋与吉
撮影補助:星野斉、山田吉男
キャスト(役名)は以下の通り。
鈴木傳明(上杉茂)
田中絹代(上杉梢)
→毅一の次女。茂の妹。所謂「気にしぃ」。「直ぐに周りを気にする、神経質なタイプ」とは是茂の弁。いつも茂を思い遣る健気な印象。
藤野秀夫(上杉毅一)
筑波雪子(上杉二葉)
→毅一の長女。
吉川満子(上杉歌子)
→毅一の再婚相手。元はパトロンだったらしい。
野寺正一 (上杉家爺や)
大国一郎 (上杉家秘書)
二葉かほる(お沢)
新井淳 (山川十蔵)
→亡くなった上杉前妻の実兄。毅一にとっては義弟に当たる。これがまた歌子とウマが合わない模様。前妻の実兄であるという立場も際どい所。実際は茂の相談相手を務めており、それなりに心強い味方ではある模様。。。と言いたいところだが。。。
前妻の実兄ならば、毅一にとっては義弟に当たり、茂たちにとっては「伯父」に当たるわけである。なのに映画は「叔父」と記載している。
山本冬郷 (大宮清八)
谷崎竜子 (大宮元子)
河村黎吉 (小原嘉六)
→常時酔払い。兎に角酔払ったまま。
小林十九二(小原平吉)
→その長男。痩せ細っていていかにも頼りない。
川崎弘子 (小原弓子)
→嘉六の長女にして平吉の実妹。
岡田時彦 (兒島藤介)
鈴木歌子 (その母)
山内光 (香取秋三)
→今回のキーパーソンみたいな存在。どうも人は悪く無さそうであるが、意志が弱いらしく、あらゆる誘惑に簡単に引っかかってしまうのだとか。
坂本武 (赤沢)
飯田蝶子 (立花恵子)
→噂話大好き、特種大好き、今で言えばワイドショー根多が命の小母。
岡田宗太郎(狩野一郎)
武田春郎 (検事)
渡辺篤 (洋服商)
→33分後に登場。歌子や二葉の洋服の調達を担当。兎に角褒め上手、煽て上手の模様。
押本映治、斎藤達雄、日守新一、吉村秀正、土方勝三郎、中浜一三、仲英之助、河原侃二
(以上、新聞記者)
→清八の取材、兒島の一軒の取材をしにくる記者。
吉谷久雄、横尾泥海男、星ひかる、関時男 (以上、東洋新聞社の同僚)
→端役ながら、音の出し方はお見事の一言に尽きる。泥海男の「天まで昇りすぎて云々」は名言中の名言。
小藤田正一(給仕)
水島万太郎、小村新一郎、土屋国郎 (以上、紳士)
葛城文子、高松栄子、若葉信子、青山万里子、 (以上、淑女)
松井潤子 (冒頭の上杉毅一の結婚式の来賓)
伊達里子 (冒頭の試合の応援客)
大山健二 (京都高校押球部のコーチ)
木村健兒
若林広雄
石山竜嗣
他に、ノンクレジットキャスティングとして以下が挙げられる。
三井秀男→112分後に誰か女を連れて一瞬の登場をする。
初めは、試合の風景から始まる。
序盤戦7分間は、台詞は無し。
どうなることかと思いきや、しっかりした絵柄の連荘に驚かされるのみ。
映像のみに依る展開である。
どうやら、京都高校と名古屋高校の押玉の決勝戦の模様である。
試合の始まる所、挨拶の風景から終わりまでをきちっと映してみせる。
激しい試合に激しい応援合戦。
けが人も出てさあ大変。
それと並行して、ある邸宅の模様が映し出される。
皆、賑わっている。何かめでたいことがある模様。
娘の姿もあった。どうやら大層ご機嫌な様子。
暫くして、披露宴の姿が。
どうも茂の結婚式らしい。年の差結婚のようだ。一体どうしたというのか。
試合のほうはと言うと、京都高校が雪辱見事成るとのこと。
勝ったようだ。
新聞にはそのことと、もう一つ気になる記事が載っていた。
上杉茂、歌子夫人と結婚したらしい。
茂のほうは明らかに子持ちであり、どうやら茂は再婚をした模様。
再婚が話題になるとは、是大層名声高き内相のようだ。
帰りの汽車にて。
茂、随分とご機嫌。例の再婚に付いて祝っているようである。
父・毅一は政治活動に忙しく、家庭のことに構っている暇が無い。
妹は若すぎる。
どうしても内助の者が必要だったらしい。それでかくも喜んでいる。
歌子、この若さでもう大人になりかけた3人の継子と煩雑なる家庭に没頭せねばならないらしく、結構なる苦労を予感させる。
どうやら茂は試合がある関係で式には出席できなかったようだ。
名古屋にて、兒島と鉢合わせ。
香取と別れた模様。どこか心配そうに汽車を見つめる茂。
とある淑女が香取を引っ掛けにかかる。これが大宮夫人・元子。丁度上海の帰りだったらしい。
香取はどうも落ち込み気味の様子。
香取、歌子の再婚のことですっかり落ち込んでいるらしい。
香取には婦人新聞社設立の計画がある模様。
それが何を意味するかは現段階に於いては不明。
茂と兒島。
兒島、学校をやめるらしい。学資問題でとか。
インフレにて計画が狂ってしまったのだそうだ。丁度世界恐慌の折を感じさせる。
単位はすべて取得したらしい。
茂に依ると、兒島は嘘をついている模様。
どうも、香取の一件が絡んでいるようだ。
兒島、香取がために学資としてためていた金銭を差し出してしまったらしい。
兒島としては満足であるものの、茂るとしてはどうにも納得行かない。
香取のことを善人に思えない様子。
兒島を見送りにどこぞの駅へ。
兒島、どうやら新聞社に再就職する模様。
嘗て進学前に学資稼ぎの為に新聞社に務めたことがあるらしいが、今回もそうなりそうな予感。
「決まったら知らせよ」と茂。
別れた後、兒島からこれといった連絡はないままに4ヶ月が過ぎたとか。
高等学校最後の休暇。
久々に帰郷することに。
兒島の消息を知るため、新たなる家庭の事情を知るためにも重要であったとのこと。
いざ、実家へ。
爺やが迎えに来る。
「変わったなあ」との茂の言葉にどこか寂しげな表情を掠める爺や。
茂は「モダンで明るい」と満足げだが、爺やはどうにも気に入らない様子。
梢がやってきた。
久々の再会。いとも梢はご機嫌。茂も懐かしさの余り感無量の様子。
夏休みは茂は帰ってこなかったらしい。
兒島の一件があって気がかりだったのやも知れない。
梢、継母がやってきて家庭にも賑わいがやってきたこともあり、満足ではある様子。
それをきけば益々満足になる茂。そうあって当然。
それがそういうわけでもないというのだからこれ如何。
爺やに続き、梢も家庭の変貌振りがどこか寂しげ。
茂一人はその斬新さに圧倒せられている。
どうも梢の様子が心細く、茂、兄らしく、
「愛は総てを結びつけるものだ」などという尤もらしい弁を吐いてみせる。
「継子3人のところへ嫁いでくれるなんて、感謝感激雨アラレだろう」と調子のことを言ってみせる。
梢、家庭が余りにも変貌してしまったらしく、すっかり懐けない模様。
んなこと言われたら当然兄としては気になろう。
冷たそうな歌子と二葉の姿が映し出される。
兄貴は初めは調子が良い。何たって内情を把握し切れていないのだから。
どうもこの茂、お調子者のようだ。
二葉、「お兄様!」と何とも感慨深げ。
歌子は茂には初めは愛想良かった。
茂は「何とかなるんじゃないか」と思っていた。
「明るい砕けた人だ」と思っている。
毅一、大磯の出張が出来たらしく、突如、出かけることに。
そこで初めて梢の億劫がっていた真実が。。。
先ず、歌子は迎えに来ない。どうやら送り迎えを面倒がるのだそうだ。
それまでなら「何とまあ面倒くさがり屋であることよ」と済もう。
事態はそれにて終わらなかった。
夜、二葉と揉めている。
墓参りに赴くか否かで。
二葉と歌子は音楽会に行きたいと言い出したらしい。
「墓参りは音楽会が終わった後に行けば」と茂は提唱するのだが、「嫌です!そんな浮ついた気持ちで墓参りには行きたくない」と行って聞かない梢。中々に礼儀を重んじたいらしい。
歌子は送り迎えさえ億劫なくらいに礼儀作法を嫌う者。梢のその体質・思想に付いてゆけるわけが無かった。
どうも、二葉と歌子はびっくりするくらいに意気投合し、梢とは深い溝が出来ていたようである。
親類たる二葉が余りにも変貌したことにも梢は深く傷心していたのやも知れない。
二葉、幾らなんでも歌子と意気投合しすぎ。何だか歌子の実子みたいである。よほど毅一のことが気に入らなかったと見える。それほどまでに毅一は家庭を顧みない出来損ないだったというのか。
茲まで梢が億劫がるには何か訳がありそう。
何もで傷じまいの茂。時間はただ虚しく過ぎてゆく。
暫くして、歌子と二葉たち一行が食事中だというので、茂は梢と共に夕食を嗜むことにする。
深夜。丁度就寝中の折。
どうも茂は寝付けない模様。
何があったのかと言うと、上が五月蝿いのだ。そう、歌子と二葉たちが客を連れ込んで麻雀に明け暮れている。
毅一が居ないのをいいことに、皆好き勝手に騒いでいる。茂や梢のことはまるで省みず。
喧しさを表すため、断片的に麻雀の風景を映し出し、途切れ途切れにみせることで刺々しさを表すなど、無声ならではの喧しさを表してみせる。
客にはあのとき引っ掛けにかかった女と香取の姿もあった。
陰からじっとその風景を見つめる茂。
改めて梢の寂しくて悲しき心境を察した思いであった。
3時過ぎまで平気で客を連れ込んで夜更かしする歌子たち。
何とも無作法なる女を新妻に迎えてしまったものだ。
暫くの間、切ない家庭の模様が展開せられる。
二葉と歌子が乗馬に嗜む間、病に倒れた父が帰ってくる。
命に別状は無い模様。
毅一、うわ言で歌子のことを呼んでいる。
久々に再会したのか、手の甲の皮が自らよりも厚くなったことに幾分感無量の様子の父・毅一。
父の老齢化を身に染みて察する茂。
政治活動が中々に困難を極めているようだ。
かくのごとき状況だからこそ、せめて家庭では平和に暮らさせたいと思う所。
乗馬から歌子一行が帰ってきた。
「体温計は」というと、歌子の部屋にある模様。
梢が取りに行かんとすると、茂が取りに赴いた。
そう、ウマの合わない梢の気持ちを察してのこと。
梢、病床に飾っている実母の遺影を眺める。実母、何を思っているのか。残念ながら死人に口は無し。
茂、乗馬帰りの歌子と二葉を激しく睨みつける。
機嫌よく辞書を持ち出す二葉に激しい怒りをぶつけ、辞書を投げ捨てる。
歌子はまだしも、二葉が父の病気に無関心とはこれ如何。
歌子、「主婦に口出しするな」とすっかり威張り腐っている。
やうやく歌子が毅一のもとに。
看護婦を呼ばんとすると、激しく梢が拒否。「自ら看護婦を務める」とのこと。
梢、どうも看護婦を務めることで少しでも父と居たかった模様。
その夜、山川十蔵がやってきた。これがまた不親切である。一体どうしたことかと思いきや、どうも歌子が余りに冷たくあしらうもので、山川がブチ切れた模様である。
歌子が山川を見つめる時のその冷たい目線がそれを物語っている。
十蔵、嘗ては義兄だからと言うことで温かく迎えられていたようだが、歌子が嫁いでからと言うもの、そうは問屋が卸してくれなくなったようだ。
毅一の病気は治ったものの、政界やらで忙しく、梢は再び寂しき毎日を送らねばならなかった。
ある問題が浮上する。梢が不登校状態だというのだ。
何ともびっくりする歌子。
どうやら、十蔵も不登校の件を知っていた模様。
茂、「政治のことはあって家庭のことは無いのですが」と疑問を呈してみせる。
十蔵、「女を悪く言うのはふしだら千万」というのだが、んなこと言われてもねぇ。
結局十蔵は大して頼りにならないことがわかる。
梢のことを話してみると、「殺せ」「一刀両断」と極論ばかり。で、酒をつがせてばかり。
その梢、かわいそうに歌子から嫌味三昧。「怠け者ですね、不良少女ですね、親不孝者ですね」と散々。それ、全部歌子にこそ当てはまるもの。
梢が頼みごとを言うと、逆上する有様。何を言っているのかわからない(何たって台詞表示が無いのだから・・・)。
「ゆきゆきて、神軍」にて逆上の余り、何を言っているのかわからなくなってしまった奥崎謙三状態。
二葉が説得にかかると、泣き崩れて部屋に篭ってしまう。
一応、歌子も悩みはあるらしく、毅一のところにきて泣き崩れはするのだが。。。
お沢、見ていられなかったのか、茂に梢が泣き崩れていることを話してしまう。
かくまで梢を滅多打ちにせられたのでは茂としてはたまったものではあるまい。
二葉から、歌子が家出することを聞かされる。
そう、歌子は何も悩みがあって号泣していたのではない。ただ「家出する」とわがまま三昧に泣き散らしていただけなのだ。
歌子がそんなに家出したいのならばということで、勢いの余り、茂は自ら家出宣言。梢と共にどこかに旅立つことに。
映し出される実母の庄造が。何を物語る。残念ながら死人に口は無し。
悲しんでいるか、「わがままな子供達め」と蔑んでいるか、永久に不明。
十蔵、毅一に何かを話している。
「かわいい子には旅をさせよ」と尤もらしいことを言ってみせる。どこまでも頼りにならない伯父。こんな伯父ならば死んでくれたほうが増し。
「兄弟とは他人の始まり」とよく言われる。本当に他人の始まりなのは親戚・親類であることがこの十蔵の言動から判る。その点をば我々は心に留めておくべきである。
まるで茂と梢の不幸を他人事かのごとく嘲笑う十蔵。それに吊られて笑っている場合ではなかろう、毅一よ。
暫く月日が経った模様。
梢、侍女の姿になっている。どうやら引越しして荷物整理に追われている模様。
そこで出会いたるが弓子。すっかり梢と意気投合している。
弓子は隣りの住人らしい。今、手伝いに来てくれていた。
梢、すっかり弓子に夢中になっている模様。憧れの存在のようだ。
その憧れが崩れるのも早かった。
必死の形相で家に駆け込む弓子。
一体どうするのかと思いきや、何と、弓子の実父だった。弓子を殺すというのだ。
相当の泥酔状態にある模様。あまりの狂気の沙汰に恐れおののく。
「2千両の買い物だ」とのたまう実父。暫くして弓子の兄・平吉がやって来る。如何にも頼りなさげ。
何とか平吉が連れて帰ったものの、弓子は泣き崩れるばかり。
茂と弓子は家のことが億劫になり、家出したわけである。
弓子は梢の憧れの存在でもあり、平和そうだったのだが、実父のことであまたに苦しんでいる。
周りもそれなりに何がしかの苦労があるものだとシミジミ思う茂なのであった。
夕飯の時。
あまりに不慣れな料理作法にすっかり滅入ってしまう茂。その滅入り方も、どこか微笑ましい。
梢、まずそうな顔を一瞬浮かべつつ、精一杯「おいしいわ」と言ってみせる。茂は流石に我慢なら無い模様。暫しの微笑ましき時。
平吉がやって来る。
どうやら茂の就職のことで伺いに来たらしい。
梢が茂のことを気遣い、仕事のことを頼んでおいたらしい。
この不況の折、かくも安易に仕事にありつけるとはこれ御の字だ。喜んで仕事を引き受ける茂であった。
いざ、東洋新聞社へ面接。
社内は、社員のどれもが茂に冷たい目線を向けている。
茂の緊張は増すばかり哉。
そんな目線を気にしつつ、面接の部屋へ。
赤沢ともう一人、冷たい目線の男が居た。どこかであったことのあるような丸眼鏡。
編集長の兒島藤介なのだとか。
茂が抱負を語ると、赤沢、何故か失笑。
「文章が下手だ」というと、益々失笑の赤沢。
兒島、「ボクの助手でも構わなかったら入社を許可する」と言い、茂は了承。
「慣れさえすれば誰でも出来る」と兒島。そんなわけで、兒島と茂の二人きりに。
突如、様子の変わる兒島。
感慨深げに「兒島!!」と茂。
就職先にてまさかの再会を果たした。
兄の月給は50円、不足分を梢の内職にて補う。
貧しくも幸福な日々だった。
暫しの憩いの時。茂の梢に対するちょっかい、それに対する梢のリアクションが微笑ましい。
何故か、夜道を一人歩く弓子。何があったというのか。。。
今夜、平吉と弓子を向かえる予定だったらしいが、何故かこない。
銀座へ赴かんとすると、突如、隣家から変な物音がする。
その物音の騒々しさ、刺々しさを、瞬間的なる映像にて表さんとする。
あの父の泥酔の様子が断片的に映し出されることにより、衝動的なる感を与える。
平吉がのそのそやってきた。
弓子のことを尋ねに来る。どうやら家出したらしい。
そう、弓子が夜道を歩いていたのは、家出したという印だったのだ。
嘉六、遂に家を出て弓子を捜しに行く。周りが止めるも効果は無し。
何だか、シムシティに突如現れた大魔王クッパを髣髴させる恐怖感。
「どうするどうなる、弓子」という悲壮感が一瞬沸く。
森の中を彷徨う嘉六。
弓子は平吉の助けを借りて隠れている。
「僕にもう少し力があれば」と嘆く平吉。
弓子、売られることを決心すると、陰から眺めていた茂が大急ぎで飛び出す。「それはいかん!!」と茂。
どうやら、父は株に手を出し、もう一儲け企んでいるらしい。まとまった金が欲しくて弓子を売りにだすというのだ。
当然ながら正義感に溢れる茂るとしては聞き捨てならぬことだ。
茂、嘉六をやっつけに向かわんとすると、殺意を感じたか、「ボクが説いて見せます」と平吉。
とりあえず、家に帰す平吉。何だか嫌な予感。
茂、勢い余ってか、ついつい「今しがた、妹が二人になった。一人は梢。もう一人は弓子」と口走ってしまう。
精一杯泣きつく弓子。
何か意味ありげと思いきや、その後何も起こることは無い。
何かしてあげたいとは思うのだが、現在の財力を以てしてはどうにもならないのだ。
自らの無力さを恥じ、嘆き悲しむ茂。そのじれったさがポイント。
一方、上杉家では。
毅一が一人ぽつんと、唯一つ不変の書斎に佇んでいる。何だか寂しそう。
お沢がやってきた。やはりどこか寂しそう。
どうやら茂と梢の帰りを待っているらしい。ただひたすら待ち続けている様子。
歌子はと言うと、香取と共にダンス三昧。すっかり愛人状態になっている香取。
疑わしく見つめる二葉。大宮元子も居る。何だか拗ねているような感じ。
そんな元子を嘲るかのような表情にて見つめる二葉。
歌子と香取のダンス三昧の風景を興味深く見つめている小母が居た。そう、立花である。如何にも噂話の好きそうな度派手な小母。
児童合唱の指導でもしていそうな風貌の小母。今にも厚化粧の悪臭にて息の根が止まりそう。
毅一、書物を読みながら、家庭が面白くないので危険思想者になって見せるとかぼやいている。
「茂!」と呼んでみせるも、茂は帰ってこない。恋しいのだろうか。
障子を開け、外の景色を眺める。背後には前妻の肖像画がある。何を思う。寂しく一人佇む毅一を見て、茂と梢の帰りを待つ毅一を見て何を思う。
死人に口は無し。死人の口が開かれることは永劫に無し。
茂、暫くして肖像画を見つめ、何か問いたげ。画は永久に答えることは無し。
毅一、扉に落書きを見つける。
嘗て子供が勤しんでいた落書きである。在りし日を思い起こしているのだろう。
その落書きにはきっとあの二葉のした落書きもあるのだろう。
茂の家にて。茂、何か思い悩んでいる様子。弓子のことであろう。
気を遣ってか、梢、「弓子を嫁に貰え」と提案。そうすれば、嘉六は好き勝手に弓子を売りに出せまいと睨む。
そうは問屋が卸さない。今、茂一家は極貧状態。到底弓子を養える状態ではない。
あまりの無力さに悲観するのみの茂。梢は共に悩み続けることしか出来ない。何と言うじれったさ。
その悩む様は、正に「若者よなぜ泣くか」と叫ばれているかのよう。
なぜ泣くかなんて、泣いている本人もその答えなど見出せない。
翌朝、新聞社の社内。皆、何か騒いでいる。
立花がやってきた。何故か「ボンジュール・マダム」と挨拶する社員達。
立花、「マダムじゃありません」と逆上。明らかにマダムそのものだろうが。
その、己の省みなさは正に児童合唱の指導者が如し。
立花、歌子のことを茂に伝えにきたのだろう。社員達は興味深げに眺めている。
立花、上杉家のことを知っているらしく、「二葉に似ている」と茂に言う。茂は特に興味なし。
兒島、記事と広告のことで赤沢に問い詰められている。
兒島は気丈に振舞っている。赤沢も負けては居ない。
周りの社員は心配そうに見つめている。
社長がやって来る。「広告も記事も載せる」と社長。
兒島、例の記事のことでか、茂に頼みごとをする。大宮清八を取材してくれと言うのだ。今回の疑獄の重要人物らしい。
いざ、清八のもとへ。
既に何もかも見透かしているような清八本人。
清八、記者たちと吉原遊郭に赴くらしい。
記者の一人が、大宮の名刺を持ち出すと、「これは金だ、賄賂だ」と言い出し、名刺を粉々に割ってしまう茂。
茂は吉原の誘いには乗らなかった。
帰り、歌子と二葉の姿が。大宮のことで何か知っているらしい。
香取のもとにあの小母・大宮夫人が付きまとう。どうやら香取と真剣にくっつきたいらしい。
香取、精一杯その誘惑を振り払わんとする。「小説家なんて狂人だ」と余計なる一言を吐く。
香取が新聞社を尋ねてくる。兒島に助けを請いにきたらしい。
結局、兒島、金銭を渡してしまう。落ち着いたら返してくれと言うのだが。。。
茂、帰路につく。
家に着くと、弓子が引っ越したことを聞かされる。何やら嫌な予感。
新住所を渡され、早速お祝いがてら、新家に向かう。
嘉六、「山が当たった」と大喜びらしい。
粗品として、御釜を持ってゆくことに。。。この間壊れたから丁度良かろうということで。。。
香取、上杉家へ。
二葉が香取を引っ掛けんとしていた。何だか心細げな香取。
茂一行、小原家の新宅を見つける。あまりに立派なので何とも感慨深げな茂。
入り口に立ったとき、妙な光景を見つける。何故か赤澤が来ていた。で、そばに居る女は。。。
弓子だぁ!!
弓子、茂を目にするや、慌てて障子を閉める。
茂、すっかり立腹し、祝いの御釜をぶっ壊し、投げ捨ててしまう。
池には虚しくお釜の蓋が浮かんでいる。
茂、弓子が結局運命のままに弄ばれたことを甚く悔しがっているというのか。
平吉がやってきた。勢いのままに殴り倒す。
赤澤が父と共謀し、弓子を強迫したらしい。売られねば、平吉を失職させると言い。。。
弓子は妾になった。もはや元には戻らない。諦めムードの茂。
小原邸ではただ赤澤の遊び倒す光景が。外で一人、見られたくない姿を見られて傷心の様子の弓子。
家への帰り、梢を先に帰し、一人彷徨う茂。何か行動せねば落ち着かなかったのだろう。
そこで、兒島と出会う。
兒島は「それで平吉が会計主任に昇進したら構うまい」と言う。茂、「大いに構う!!」と反論。そう啖呵を切って見せるものの、何もできない自分が口惜しかろう。
暫しの間、兒島と談笑のひと時を交わすことに。
その一方で、二葉は香取とダンス三昧。
二葉、香取に色目を使っている。何事にも動じない様子の香取。一体どうなることやら。
茂、兒島の家に身を寄せる。如何にも年老いた母が居た。レコードを聴いている。
兒島、弓子と平吉の一件で説得している。「憎むのはかわいそうだ」と。「弱い者はそれ自身報いを受けている」と。
暫しの談笑のひと時の後、梢のことが気になり、帰宅することに。
兄は妹をいたわり、妹は兄をいたわりつつ、何も出来ない日々が暫し続いた。
暫くして、会社にて。
あの立花が社員達と談笑している。立花、すっかり社員気取り。何とも厚かましき哉。
何と、社長が変わったらしく、社内はそのことで話題に。
横尾泥海男、昇進の余り、天まで昇りそうなのだとか。どさくさに紛れてタチの悪い洒落が。。。
泥海男の次に昇天しそうなのが兒島らしい。
危険人物だと疑う赤澤が社長代理を続けるらしく、兒島の立場は危ういそうだ。
社長の席にはあの大宮清八が居るではあるまいか。そのそばにあの平吉が。
兒島が呼ばれ、社員達が噂話に没頭。そのさまを、暖められているお茶に例えてみせる。
社内が白熱している様が、薬缶の沸騰してゆく様から読み取れる。
兒島、松岡みたいに「我が代表、堂々退場す」とでも言わんばかり。実に気丈に免職を宣言。
赤澤が送別会のことを持ち出すと「そんなの要らない」と一蹴。
次第に社員の熱は沸騰。薬缶も沸騰。
茂、「兒島を渡すな」と必死。
兒島、命を落とす覚悟。「僕一人の為にこの会社を血で汚してはならぬ」と。
社員達が沸騰する中、平吉は社長室にてただ一人がっくり来ている。如何にも気弱で無神経。
兒島、その日に釈放せられたが、茂は再び新聞社に働く気持ちにはなれなかった。
色々職を転々とし、最終的にはビール会社に落ち着いた模様。最終ラウンドの始まり。
「背広を着ている荷物運びなんて」とからかわれている。
歌子と二葉。
二葉、どうやら香取と結婚したいらしい。金銭を欲している。何と言う贅沢者か。
歌子一行、香取を迎え、婦人新聞社創立にあたり、あれこれ動いている模様。
大宮夫人、歌子を甘い話に乗せんとしている。
心配そうな香取をダンスに誘う二葉。
夜、実に珍しく、夫の接待に夢中の歌子。「願わくば、毎日斯くあって欲しい」とポツリ。
どうも、婦人新聞社設立のことでご機嫌の模様。
二葉は本格的に香取との結婚を望んでいる。歌子には何やら考えがある模様。
二葉は毅一の実子であり、父の秘密を知っており、歌子には欠かせないというわけだ。
香取はと言うと、時折堪らない自己嫌悪に陥るときがあるらしい。死に一瞬憧れる時もあったとか。
なんだかんだごちゃごちゃ言って結局は誘惑から逃れられないホームラン級の馬鹿と言うわけだ。
兒島はと言うと、新聞社をやめ、何がしかの危険行動に絡んでいる模様。
風貌が勤めていたときとまるで違う。
そんな中、香取には「良くない考えを起こすな」と一言。何か説得力に欠けるねぇ。
大宮清八、埋め立て計画の為に大金をつぎ込んだとか。
「正義に帰るのは今だ」と兒島。
上杉毅一の告訴を兒島。をいをい、毅一は親友・茂の実父ではあるまいか。
「7千万の国民には代えられない」と言われてもねぇ。。。
それを知らないで、兒島の母と談笑のひと時を交わす茂に梢。
梢、兒島の母に、我が子息の嫁になるよう勧められている。
ふと、平吉が尋ねてきた。怒りの眼差しを向ける茂。
弓子が毒薬を飲んだことを告げに来るも、あっさりと追い返す茂。
一命は取り留めたものの、精神状態がおかしくなる。
一瞬は哀しそうな表情を掠めさせるものの、ひたすらに無関心を装う茂。
平吉を怒鳴り、冷酷にも追い返す茂。この上なく冷たそうであるが、勿論すべての悲しみを抑えてのこと。
茂、あのもう一人の妹・弓子が死の淵に達しんとしている。何とかしてやりたい。何とかしてやりたいのに何も出来ない。どうすることも出来ない。
自らの無力さを改めて嘆く茂。大いに泣き荒ぶ茂。その茂の思いを察するが如く、外は嵐が吹いている。大いに吹いている。
傍らにて甚く憐れむ兒島の母。
その眼差し、正に「若者よなぜ泣くか」とでも問うたげ。
嵐の中、誰かが尋ねてきた。どうやら兒島の様子。いつもの丸眼鏡に戻っている。
どうやら飢餓に喘いでいる模様。闘いすぎて疲れたというのか。
暫しの休息に入る。
兒島、どうやら死闘を覚悟しているようだ。茂に母の世話を頼み込む。
食事が終わると再び外に出る。嵐に豪雨などお構いなし。
梢、必死で見送りに行く。「達者でな」といった様子の兒島。梢、生還するよう必死に頼み込んでいる様子。
嵐の豪雨の中を駆け出す兒島を、嵐にめげずに愛しの甘い眼差しにて見送る梢。
茂、ほのかな思いを寄せているような様子の梢を陰から目にして何を思う。
嵐の豪雨が止んだ。
翌朝、それが嘘だったかのように晴れている。風がどうも強い模様。
街は今、号外にて盛り上がっている。そう、上杉毅一の告訴事件にて盛り上がっているのだ。
茂、そうとも知らず、ただ橋の上から景色を眺め、物思いに耽っている。
十蔵がやってきた。正に偶然出会った。告訴のことを告げに来たのだ。
周りの人々は「あれが毅一の子息??」と噂しているかのよう。
茂、大急ぎで上杉邸へ。丁度仕事中だったらしく、残された荷物は十蔵が運ぶことに。
到底一人では賄いきれず、周りの人々に手伝いを頼む。何とか一人が協力してくれた。
上杉邸へ向かうと、お沢が必死の形相で茂の下に飛んできた。あれこれ事情を説明している。
部屋では歌子一行が麻雀三昧。亭主の告訴のことなどまるで無関心。
茂、麻雀台をぐちゃぐちゃにしてしまう。逆上する歌子。そんなことなどお構いなし。果てには歌子を追放せんとする。
「やめろ!」との声が。そう、毅一が戻ってきたのだ。
思わぬ所で、実に予期せぬ所で親子の再会。
茂、家出のことで父に深く詫びる。父・毅一に「ずっと帰ってくるのを待っていた」と一言。歌子一行はまるで無関心。
吉浜の埋め立ては調査の結果、初めから許可の方針だった。共のことは誰にも漏らさなかったと言う(「共」って若しやして共産活動のこと?)。
無論収賄などは思いもよらぬことだったと毅一。
今日、出頭して初めて事情を知ったらしい。告訴人の、香取の言う所は、歌子と二葉とが大宮夫人に埋め立て許可の方針を漏らし、それによって得た利益の分配に預かったというのだ。
歌子の離縁を頼み込む茂。二葉は実子であるが故に「仕方ない」というわけだろう。切っても切れない縁であるから。
毅一、「歌子も二葉に同じく、仕方がない」という。娘と妻、どちらの明も見る目が無かったと猛省の様子。
「女は罪を他人に移して逃れもしよう。男は自ら進んで罪に服すべし。全国民に向かって罪を謝そう。東京府民に対しても・・・」ともっともらしい覚悟。
新聞には、毅一と兒島の顔写真が載る。居ても立ってもいられない様子の梢。
思いを寄せている人と実父とが、今、法廷にて争うやも知れないのだ。
毅一、すっかり猛省の様子。曰く、
「一家を泊めることの出来ない人間が、国政に携わることが既に僭越(せんえつ;奢り高ぶり)の沙汰だ。お前達が家庭を見捨てた時に儂(わし)はそのことを悟らねばならなかったのだ」と。
罪の如何に関わらず、位置から出直す覚悟らしい。家庭を治めることから出直すつもりらしい。改めて茂に帰ってくるよう頼み込む。
茂は、兒島の一件を話し、もう暫しの時間を願う。兒島の母ということで、ためらいがあったというのか。
懸命に、「兒島はしっかりした、かわいそうな男」と説得してみせる。
そう言われると、意外にも素直に了承する。
上杉毅一の収賄沙汰について全国民は夢中らしい。
茂や梢にとっては何とも辛い日々であることが伺える。
兒島、達雄たちからあれこれ取材を受けている。ついで、歌子一行にも取材陣が取り付いている。
取材陣が歌子一行のもとに全員向かった後、茂がやってくる。
その部屋には、兒島の他に、香取も居た。「しっかりやれ」と兒島に声をかけられ、部屋を後にする香取。
茂、「しっかりやれ。母のことは心配するな」と一言。父の事に付いては漏らさなかった。
どうやら、証拠不十分とかで対審するといった展開に。
証人の歌子一行(歌子、二葉、大宮元子)の言によると、300千円云々は絶対に知らないとのこと。
兒島の告発状は全く無根の捏造になるらしい。
兒島は「そんなはずは無い」と強調。香取が証拠だという。
歌子一行、「シメシメ」とばかりに薄ら笑いを浮かべてみせる。
香取も「知らない」と言う。呆然とする兒島。
香取にも疑いはあるらしい。前日は告訴状の事実を認めておきながら、歌子一行が来ると突然言葉が変わってしまったとか。
どこまでも誘惑に弱いホームラン級の馬鹿らしい。
結局香取、悩みつつも、「前回は気が動転していた」と、歌子一行の弁を認めてしまう。
「香取!」と叫ぶその二文字が虚しく胸に突き刺さる。
戦いはどうやら理想主義者の敗北に終わったらしい。
茂はまだ諦めていない。何とかして香取を歌子一行から取り戻さねばならない。
茂は、憎しみを紛らわせるため、動物の如く動くことに、働くことに徹した。
茂、いつもの通り、荷物運びに勤しんでいると、ふと、婦人新聞社のアジトに出くわす。憎しみの眼差しを以て見つめる。
婦人新聞の主宰には青年文学士・香取が勤めると新聞に掲載せられる。
そう、香取はこの名誉欲しさに歌子一行の誘惑に負けたのだ。
香取、どこか陰鬱そう。歌子一行は至ってご機嫌。
時折罪の意識にさいなまれてか、気狂いを起こすこともあるそうな。歌子一行はまるで無関心。
梢は相変わらず兒島の母の世話に勤しむ。唯一の憩いの場でもある。
今、レコードを聴いている最中らしい。母は子息のことが気がかりで仕方ない。精一杯「大丈夫」と慰めてみせる。
梢、嫁入りの話をする。肉親が居ないのならば自分で見定めるほかあるまいと兒島の母。何だか寂しそうな梢。
丁度そのとき、婦人会が行われていた模様。
「香取さんは?」と大宮夫人・元子。
何と、香取、自殺していた。あの時、気が狂った後についつい衝動的になってしまったのやもしれない。
それに気づかない婦人会の糞虫ども。どこまで無神経なんだこいつらは。
茂と兒島がかけつける。
どうやら香取は死を一つの安息所に思っていたようで、そこまで追い詰められていたようである。
婦人会が終わったのか、警察がやって来る。
シミジミ開かれる香取の葬儀。どうやら茂の家にて開かれている模様。
兒島の母曰く、「罪を憎み、人を憎まず」と。
悪いことを憎むのは良いが、人には思い遣りがなければいけないとか。
茂と兒島、香取を憎んだものの、成仏した後はかくして許して家へ連れて来た。
何故生きているうちに許して助けてあげなかったのか。
自分ばかりの我を通して思い遣りがなかったから。
茂、梢、兒島、、、何を思う。
母、シミジミと線香をあげる。
一瞬、母が吉永小百合に見える筆者。そんなことを一々突っ込んでいる場合ではない。
丁度その頃、平吉が尋ねてきた。
弓子を捜している最中。
さあ、試練の時がやってきたとでも言わんばかり。
神が、兒島の母がとでも試練を課したが如く、平吉が尋ねてくる。
今度こそは生きているうちに人を許さねばならない。あの時が如く責め立てている場合ではない。
茂、勢いに乗って弓子との結婚宣言をする。
兒島の母の訓えを守るが如く、弓子のもとに駆けつける。
茂の予想通り、あの林のところに弓子は居た。
すっかり傷心しきった様子の弓子。余りにも顔面が蒼白である。
懸命に「弓子、弓子!!」と声をかける。何とか気を取り戻した様子。
結婚の話をしたのか、我に返り、これまで溜め込んでいたものをすべて吐き出すかのごとく、茂に泣きつく弓子。
毅一が政界を引退して2年が過ぎた。
舟にとあるカップル二組が乗っている。
茂・弓子カップルに、兒島・梢カップル。
罰を受けたかのごとく、平吉はどこ吹く風。兒島の母も亡くなったのか、気配が無い。
弓子、松井潤子みたいな髪型に。
茂に依ると、都会好きの歌子・二葉が田舎に住み、都会嫌いの梢や弓子が都会に住むようになったらしく、運命の皮肉をつくづく感じている。
「時の力」と兒島。「果報は寝て待て」ということか。
皆、すっかり仲良くなったのか。
二葉は別の男性と結婚し、既に子供も産んだ模様。歌子もすっかり毒気は消えている。
父・毅一の余りにも老け込んだ姿が何だか痛々しくも、実に物語りはこれまでの悲劇と混乱が嘘かのごとく、実に幸福に締められる。
その幸福の背景には、あの兒島の母の訓えが見え隠れする。
あの時の訓えを茂たちに訓え・伝え、すっかり満足のままに成仏したかのよう。
すべては自分ばかり通して思い遣りがなかったがために起きたもの。
誰か一人でもそれに気づけば良かった。残念ながらその当然のことわりには中々目が行き届かないもの。
二葉のあまりの懐きっぷりがどうにも気になる。一層のこと、歌子の実施にしたしまったほうが良かったのではと思えるほど。
それもこれも、二葉が己のことにばかりに夢中になってきたことに始まるのであろう。金銭欲しさに歌子に引っかかり、香取を狙わんとした。
思えば兒島もあの時告訴を香取に勧めた際、一瞬ながらも私利を通さんとした。
一応、香取に金銭的援助をしており、思い遣りはあったのだが、もう一歩足りなかったのだ。
「若者よなぜ泣くか」、、、それは、当然の摂理に気づかず、目の前の悲劇や事件に奔走している若者たちに送る嘆きの言葉なのである。疑問の言葉なのやも知れない。
「なぜ、自然の摂理に気づかない」という遠くに見守る神の言葉であり、ただひたすらに冷たく傍観する兒島の母の嘆きの言葉であり、問いかけの弁。
兒島の母は傍観者であった。神でもあった。
まさかの時に、迷える時に導かれる答えは実に単純明快。小学校の道徳レベル。
行き止まりの迷い道への脱出法は、案外、幼少期の何気ない時間に隠されているのやも知れない。
売り文句の通り、怒涛の時間にて、軽快にリズミカルにまとめる展開。「あれよあれよ」と目まぐるしく次々と事象は展開を見せる。
162分だけに内容は盛りだくさん。
家庭問題、友人問題、恋愛問題、果てには政治問題にまで足を突っ込まんとする。
散々盛り上げておきながら、実にオチは単純明快。
「え?!それだけ??」と仰天すること請け合い。
実に単純明快なのである。162分にこめられたその頂点は、慣れ親しんできた母の味とでも言わんばかりに既知の事実。
その頂点にたどり着くまでに162分もかける。散々愛憎劇を見せつけられ、最後に見せる当然の真理。背後が強いインパクトだけに、兒島の母の残すあの訓えがいとも強い印象となって心に突き刺さることになる。
「そ、 それだけかよ?!」という裏切りの要素もこめられている。
蓋を開けてみるに、その完成せられた無声の体系に驚かされる。
特に仰々しきアクションが展開せられるわけでもない。何気ない動きを以て総てを伝えんとする。台詞がないからと億劫がることはない。台詞がなくても伝わる所は逆に台詞を削除するのである。台詞表示は、そうでもしないと物語が伝わらないために行うのであり、一種の映像でもある。
無駄の無い無声の体系、長編の古典が茲にある。
長々しい台詞が所々登場する。
初めはいとも驚愕しようが、怯んではならぬ。実の所、長い台詞表示の箇所は、表示時間が長めに取られている。やや速読力が必要になるが、何とか読める速度ではある。
寧ろ、短文の台詞に注意する必要があるやも知れない。やや短めの表示時間だからである。
8.5点。
田中絹代((
ロッパ歌の都へ行く (モノクロ)
監督・脚本:小国英雄
製作主任:本多猪四郎
製作:滝村和男
音楽:服部良一
振付:堀井英一
作詞:上山雅輔
演奏:PCL管絃楽団
キャスト(役名)は以下の通り。
古川ロッパ (結城清彦)
渡辺篤 (父・基彦)
→社長を務める。何故か「レコード」という言い回しを時代遅れとして忌み嫌う。
元々は百姓の倅だったらしいが、それを継ぐのが嫌で上京、勘当状態に。
石田守衛 (真岡)
堀井英一 (大島)
大庭六郎 (久留米)
ロッパ一座総出演
井口静波 (浪花節のアンチャン)
→オーディションにやってくる。訛が多いのが難点。
高杉妙子 (明石三千代)
→女秘書。清彦を最後まで温かく見守り、陰から支える。
藤間房子 (弥生刀自)
清川虹子 (女歌手)
霧原千草 (タイピスト)
悦ちゃん (給仕)
主題歌:同年度流行歌謡曲集
コロムビアレコードより、
「雨のブルース」 淡谷のり子
「支那の夜」 渡辺はま子
ポリドール・レコードより
「親恋道中」 上原敏
キングレコードより、
「ふるさとの母」 松島詩子
テイチク・レコードより、
「上海ブルース」ディック・ミネ
「満州娘」 服部富子
ビクターレコード
「太平洋行進曲」 徳山レン
東京の街。
今日も歌で賑わっている。
基彦が秘書を連れて街にかかっている歌がどのくらいヒットを飛ばしているか聴き、調べている。
肝心のわが社のヒットソングは。。。
販売店はどんどん売れるものを前に出し、売れないものは残り組として隅に追いやられ、埃を被っているのだとか。
社長、何だか面白くなさげ。
食堂にて、気に入らない曲がかかっていて、かけるのをやめさせる。社長、わが社の曲であるのを知ると、かなりどぎまぎしている。
よもやあの曲がわが社の曲だったとは。。。
自らの気に入らない曲がわが社の曲であっては、売れなくて当然だわ。
上半期の収入は17万7千円。
この稼ぎは良いほう、、、らしい。社長も何とか上機嫌。
支出の方は、、、そうだ、それを知らねばならない。
その支出は、占めて32万7千円。
あらら、物凄く多いではあるまいか。。。
そんなこんなで、15万4千円の欠損だという。
あれれ??なんで32万7千円なのに、15万4千円の欠損なんだ???
15万丁度になるはずなんだけど・・・^^;;;
これって、ご愛嬌??小国さん。。。
バカ???
そのくらいの計算間違い、大橋巨泉でも解るぞなもし。
あんたねぇ、黒澤明のこと偉そうにこき下ろしている場合じゃねぇよ、ヴォケが。
社長はご立腹。それを通り越して、社長としての自信を喪失。
この欠損を如何にして穴埋めすればよいのか見当が付かない。
社長の屋敷はとっくの昔に抵当に入っている。
専属の女歌手が泣き喚いて居る。
やり直しばかりで全然捗らないという。
付き人と女歌手の意見がまるで合わない模様。
もしも倒産となると、300名の従業員が路頭に迷うことになる。
社長、倅の清彦を社長に就任させようと悪巧みをしている。
今、清彦は自分の母と共に農園を切り盛りしている。
一体、どうなることやら。。。
いざ、その田舎へ。
清彦、実に楽しそうに歌を口ずさみながら農業をしている。
ヤンマー・ディーゼル「早苗ちゃん」を用いてかなり捗っている模様。
基彦が母に電話をかけ、清彦を上京させるよう連絡。
基彦、仮病を用いて清彦を求める。何ともわざとらしい咳き込み。
母、断じて認めない方針。
どうやら元からレコード会社が嫌いだったらしい。仮病は全然通じず。
基彦、死んでみればよこせるのでは。
秘書に、訃報の電報を打つよう命ず。一体どうなることやら。。。
その思いは、訃報の悲惨さは清彦に、更には母に届くのやら。
早速遺言を録音してみせる。何と、BGMをもつけてみせる。楽団員、指揮者を初めとして真剣に演奏。
その「ガチンコ!」を思わせる余りのタイミングの良さに騙されるのかどうか。。。
女歌手は軒並み気楽。嫁に行けば良いのだから。
汽車がやってくる。緊急事態だと慌てているかのように蒸機が煙をモクモクと揚げている。
どうやら清彦、本当にやってきた模様。母、訃報の電報にまんまと引っかかったのだろうか。
基彦の銅像って。。。思い切り動いとるやんけ。
秘書、「嗚呼、その銅像には触らないでください」だとさ。
銅像もどき、無言で必死にあれこれ指図をしている。
嘘くささ満点の遺言を聞かせる秘書。
基彦、単に歌舞伎口調になっとるだけやないけ。それが清彦は充分届くのだから。
純真無垢と言うのか、ホームラン級のバカと言うのか、、、
早速清彦が社長に就任。
何故かミュージカル調にて決算会議が行われる。
婚期の収入は12万8千円。左側が喜ぶ。
支出は32万7千円。 右側が泣き崩れる。
差し引き15万4千円の赤字って
なんでやねんゴルァ???!!!!
19万9千円やろ!!!!!!!!!!
清彦、素で「赤い文字を墨で書き入れれば良いでしょ?」茲だけ普通の口調に依るところが出色。
従業員一同、「嗚呼、呆れた!新社長!!」とミュージカル調にて大ブーイング。
あんなぁ、余談やけどなぁ、笑ってけつかいとる従業員、
ひいては小国本人!
オマエ、、、
19万9千円を「15万4千円」とぬかしてる時点で可也の笑い者やぞ??
欠損、思い切り少なぁなっとるしよぉ。
どうやら清彦が社長に就任してからはミュージカル調にて本編を貫き通す魂胆なのだろうか。
暫くミュージカル調の展開となる。
社長の靴が明らかに底が割れており、到底落ち着くわけがない。
散発もかなり雑だ。
一応、わが社、サクラ電盤、新社長を迎えて好調の模様ではある。
邦楽の歌い手のオーディションが行われている。訛が酷いのが難点だという。
1人、清彦は喜んでいる。
社長、経営自体は巧いようだが、用語のことについて兎角無知。
それについてからかう歌手も居る。
ただ1人、清彦を温かく見守る三千代が。
或る日、田舎から電話が。
花子が危篤との一報が。。。
花子と言うのは妹??
いやいや、牝牛だったのだ。従業員は大笑い。
ま、清彦にとっては大事な存在だったんだろうな。
清彦、農家にて働いていた経験から、農園の手入れをしないことには気がすまない。
都の自宅が抵当に入っている関係で、会社の屋外にて庭園を拵えた。
1人、「可愛い」として庭園の世話に付き合ってくれる三千代。喫茶店にて珈琲を飲むのが趣味だとか。
清彦、区画整理会議には特に興味なさげ。完全に農家の体質が身に付いている模様。
余りに親しくなり、ついつい調子に乗ってその三千代を実家の農園に連れて行く。
そこからは暫しのミュージカル調に依る手入れの場面。
三千代、農園が気に入った模様。風が涼しくて心地よいとの事。
水は喫茶店の珈琲よりもおいしいとか。
三千代、「あなたはやはり田舎で住むべき人だ」確かに。
渋々帰ってきた清彦、どこか寂しげ。
その部屋には基彦の銅像が。
真剣に悩める清彦。平気で人を貶めたり罵倒し在ったりがどうにも理解できず、寂しい思いをしているとの事。
基彦の銅像、ついつい「いかんいかん!!!」と口出ししてしまう。
清彦、「魂が成仏しないのか?!」と悩める。
あっさりばれてしまう。。。
結局は基彦側が真相告白。
「社長を続けてくれ」とわざとらしく必死の口調にて懇願。
三千代は、1人清彦の本心を見抜いている。
或る日、品物を半額にて売り出したことで、従業員が一同抗議に。
百姓の話をして清彦は反論。
従業員は「そんなに百姓が大事ならとっとと田舎に帰れ!」
その後、祖母から電話があり、会社に突撃するという。大層ご立腹だとか。
母がやってきた。
清彦は何故か銅像のフリをしている。
清彦と基彦が共に銅像のフリをしているところに母がやってきて、好き勝手に憎まれ口を叩く。
銅像は可也やりづらそう。老人だけに歩き方が遅く、ポーズをするのに何時間も我慢して居ねばならない。
三千代が熱心に説得。
母=祖母は鼠と流行歌がこの世で一番嫌いらしい。
三千代の説得により、音楽会に出席することに決めた母=祖母では有ったが。。。
現在、各社の垣根を越えた前例なき音楽会が開かれている。
淡谷のり子、そのポーズ、そのまんま。コブシの廻し方も然り。
・・・といった具合に、冒頭にて紹介せられた昭和14年度の流行歌が片っ端から披露せられる。
舞踏団も加わり、かなり豪華。
今観ると、くどくどしい感じであるが、当時は流行歌のコンサート模様が併せて観られて意義深かったのであろう。
祖母、三千代がすっかり気に入った模様。ついでに流行かも見直した。
「初めからベートーベンがわかるわけでもないからねぇ」と母=祖母。
これは正に名言。
名作を知るには駄作を知る必要もあるのだ。これについてはまたの機会に。
あのくらいの曲がわが社に一曲でも拵えることができれば資本を下ろす事を承諾しようと祖母。
それを聞いた基彦、慌てて「本当ですか?!」と。母、死んだはずの基彦がやってくるものだから失神してしまう。
祖母から三千代が遠くへ旅立ってしまうことを聞き、何気にショックな清彦。
夜、三千代は1人庭園にて水をせっせと遣っていた。これが最後の水遣りになるやも知れない。
そこに清彦が現れ、実家の農園にて謳ったあの曲を、懐かしさと感慨深さをかみ締めて謳う。
三千代の旅立ちを温かく祝うかのように。
その曲は、何者かにせっせと録音せられていた。
その曲こそが、清らかなる流行歌であった、、、というオチにでもしたいのであろう。
歌唱シーンとそれ以外のシーンとで音量が違いすぎるのが難点。
特にロッパの音声が一部を除いて小さすぎる。
後、計算間違い。
誰も気付かなかったのだろうか????
これ、収入と支出の他に何か特別収支や税効果会計(あるわけないだろ)が加減せられているのだろうか。
7.73点。
危うし!!快傑黒頭巾
「快傑黒頭巾」シリーズ第九作である。
今回は長崎が舞台。
長崎と言えば出島とでも言いたいのか、中国人が割り込んでくる。
異国情緒という意味合いらしい。
一体どうなることやら。
監督:松村昌治
原作:高垣眸
音楽:鈴木静一
脚本:小川正 、松村昌治
キャスト(役名)は以下の通り。
大友柳太朗 (快傑黒頭巾)
伏見扇太郎 (榊原新之助)
桜町弘子 (妙)
住田知仁 (大次郎)
近衛十四郎 (曹自忠)
丘さとみ (曹麗花)
中里阿里子 (李彩玉)
松島トモ子 (彩生)
進藤英太郎 (松平主税介)
→今回の事件の真犯人。
戸上城太郎 (岩瀬主水正)
本郷秀雄 (劉子明)
三島雅夫 (王徳順)
御橋公 (榊原若狭守)
吉田義夫 (エンマの吉五郎)
堺駿二 (ホトケの三太)
→毎度お馴染み外れ役。兎に角出てきたかと思いきや外してばかり。かといって敵陣に悪影響を及ぼすわけでもない。贋物の顔の傷で驚いたり、てんやわんや。
加賀邦男 (坂本竜馬)
中村時之介 (添島)
渡辺篤 (陳老人)
鈴木金哉 (宗道元)
大野京子 (白蓮)
木内三枝子(黄蓮)
吉井麗子 (水蓮)
五味勝之介 (平野三次郎)
上代悠司 (伊藤半蔵)
津村礼司 (大島)
小田部通麿 (石田)
那須伸太朗 (大田善助)
若井緑郎 (矢野平馬)
藤原勝 (奉行所門番)
疋田圀男 (取次の侍)
大邦一公 (呉宗恵)
加藤浩 (周)
古石孝明 (金)
大城泰 (申)
浅野光男 (鄭)
村居京之輔 (今田織部正)
滝川浩 (清吉)
伊吹幾太郎 (嘉七)
和田弘とマヒナスターズ (呼帆棲の歌手)
→歌謡ショーのシーンにて登場。好き勝手に歌い散らしてどこかへ消え去ってゆく。
「危うし」というのは、どうやら、黒頭巾、濡れ衣を着せられたようである。
実は松平一派が諸悪の根源なのであるが、殺された遺族の方は中々それを信ぜんとしない。
兄上、父をとるか友をとるかで悩んでいる。
中盤戦から中国人が登場・乱入。
初めは馬鹿げた歌謡ショーの披露かと思いきや、意外なる形にて登場人物と絡み合ってゆく。
黒頭巾は神出鬼没。
今回はその度合いが過ぎたやも知れない。
神出鬼没と言うよりは、単に存在感が薄いだけと云う印象。
「快傑」の名に相応しく、痛快テンポにより進められる。
6.98点。
蛇姫道中 (モノクロ) BBB
どうやら「蛇姫様」の改作らしく、それの再映画化が出来ず、川口松太郎自身が細部を変え、別の話にアレンジしたとか色々推測せられている。
監督 木村恵吾 、丸根賛太郎
→恵吾監督にマルサン監督が応援する形で駆けつけ、共同監督体制となったようだ。
構成 伊藤大輔
原案 川口松太郎「蛇姫様」
音楽 飯田三郎
脚本 依田義賢 、木村恵吾
キャスト(役名)は以下のとおり。
大河内伝次郎(田辺平九郎);新東宝
長谷川一夫(瀬川菊之助)
→人気女形役者。平九郎を兄貴分と慕う。
山田五十鈴(琴姫)
→入江たか子を意識したかのような出で立ちになっている。
京マチ子(お時)
→何だか大整形工事を受けてピッカピカになった清川虹子みたいだ。
柳家金語楼(金助)
渡辺篤(藤次)
横山エンタツ(白雲斎)
坂東好太郎(本多勝秋)
→全くと言ってよいほど登場しなかったような。
杉山昌三九(永瀬十郎)
藤井貢(佐伯隼人)
阿部九州男(川勝伝蔵)
香川良介(大久保忠成)
東山千栄子(笹尾);俳優座
楠木繁夫(島吉)
美ち奴(小きん)
→→この二人は主題歌を担当している歌手。劇中では流しみたいな格好で登場。
伊達三郎(藤原弥兵衛)
上田吉二郎(山村喜左衛門)
遠山満 (長兵衛)
東良之助
荒木忍(岡部内膳)
??(お春)
常盤操子(乳母)
→冒頭、笹尾と共に赤子の世話をちょっくらしている。
菊の輔の女形芝居から。
小屋は大変な盛況で、表の受付では宣伝にて賑わっている。
裏にて金助、平九郎と将棋している。
ありゃ、あっさり負けた。
そこへお時がひょっくら顔をみせる。
ありゃ、平九郎、あっさり逃げた。
随分と恐れられている。酒代を払っていないんだとさ。
あら?その話、どっかで聞いたことあんぞ!
お時、金助に頭のことを指摘してやる。
「そんなこと言わんでも良いでしょ」ちょっくら悔しいようで。
菊之助が代わってツケ代金を払わんとすると、「断る!」と強気のお時。
本人にどうしても払わせ、困る顔を見たいわけだ。
他人が助けては平九郎の困った姿が観られない。
菊之助太夫の駕籠が突如何者かに取り囲まれたとかで大騒ぎ。
金助、「頭を刈ってでもお詫びのほどを」
「刈る程残ってへんやんけ!」と突っ込まれた。
金助、序盤戦は妙に毛の少なさを根多にせられる。意外に珍しいことである。
太夫、笹尾と出会う。コイツの仕業らしい。
ただ今から蛇姫様になれ??
そこから突如、20有余年前へとワープ。
何が起ころうというのか。
どうやらこの太夫の数奇な運命の軌跡を紹介したいようだ。
城にて。
赤子が生まれたと大騒ぎ。
何と、太夫と姫の双子、男と女の双子だという。
それは不吉の印なんだとさ。
忠成が訊くと、まじない師が煽るんだなー、これが。
双子のうちのいずれかをというのだ。
そばについていた幼き平九郎。良い子と思われていたようだ。
城では、姫を遺して男子を散らすと決まった。
笹尾が立ち会っている。
女の赤子の方は蛇姫と命名。
それから、巳の年の春へとワープ。
成人した蛇姫こと琴姫が羽子板にて遊んでいる。
そこへ、忠成が急病で倒れたとかで大騒ぎ。
まじない師・昌山がそこでも登場。
鏡が無いとかで更なる騒ぎ。
本田勝秋という者のと頃に廻っているようで。
隼人がしげしげと眺めていた、その本多邸にて。
それが早速伝わり、慌てる忠成。何故か元気になってそちらへ急行。
突如、本多の枕元にあったとかいう言い訳をかまされる。
喜内があーだこーだ報告。
一方、菊之助は蛇姫にくりそつとの評判が立ちつつあった。
評判の人気女形との宣伝が芝居小屋にて為されている。
菊之助、蛇姫として迎え入れられている。
そこへ挿入歌が。
暫くすると、道中にて、歌い手本人が流しみたいな格好にて登場。
唄が終わった後、金助に藤次、「んなもん用はねえよ!!」とナイス突込み。
美ち奴ともう一人の男、何ともいえない表情をしてやんの。
茲はマルサンの発案やもしれない。
白雲斎、菊之助を捜索する3名のリーダー格らしいが、どうにも頼りない。
渚は18歳だった平九郎に「蛇姫を頼む」と告げ、亡くなったのだそうな。
岡部ってのがやってきて、帰り、30銭を平九郎に渡すも、どうにも合点行かない様子の平九郎。「んなものは要らぬ!!」
そこに忘れかけていたお時がやってくる。何で渡したくないねん。
お時、追っかける気がないんかい。
「逃げたってダメだから、うふん」て何やねん。
菊之助、笹尾からは菓子ばかり貰われ、飽き飽きしているんだとか。
蛇姫の身代わりの真相を知らず、実に退屈そう。
訊いてみると、「その事に関しては一切口を慎みます!」
男らしく振舞うと、「はしたのう御座います!」と怒鳴られ、益々退屈そう。
平九郎、めぐりにめぐり、宿舎にてお時とばったり。
30両は、「預かり金だ」と誤魔化す。
明日の天気を調べる?不意に外を眺め、お時に不思議がられる。
白雲斎一行、「蛇姫ばっかり会うなー」
双子やから当然やねん!!
つーかその蛇姫って菊之助本人ちゃうの。女形姿のままであるわけで。気付いたれ。
菊之助、やっと男にもどれ、酒をたっぷり味わえる。
頭上だけ男に戻ったもので、却って気味が悪くなった。
セイラママに変身して何とか脱出を試みるも、笹尾は中々騙されない。
いつしか平九郎、お時と一緒の部屋に居た。
遊んでるやん。
わざとらしくであろう、裏手の壁と屏風の間にひっそりと隠れ、着替えてみせる。
途中、肢体美をチラリと披露。
をいをい、平九郎、あんまり感じないんかい。
白雲斎一行はというと・・・
十郎、白雲他は何処に行ったかを訊かれ、「仕事にいっています」と誤魔化した。あ、按摩?!
一応、3名は按摩を本当にしていた。下手がられている。
白雲斎、盲目なのに何故眼鏡をかけているか訊かれ、「伊達眼鏡です」
後で普通に金助と後ろで喧嘩してどうすんねん、あほ。
そんな折、「曲者だ!!!!」との叫び声がして当たり一帯大騒ぎ。
笛がけたたましく鳴る。
白装束の男が暴れていた。
若しやして平九郎か。
金助、騒ぎの中、あっさり眼が見えるとばれてしまう。
敵側も今頃気付いてどうすんねん、あほ。
白装束の男、菊之助の所にやってくると、口元を見せ、平九郎であると証明して見せた。
実はその白装束は2名居た。
もう一人はどうやら十郎っぽい。鈍足であっさり捕まる。捕まえる側も豪い鈍臭い喃。
平九郎、菊之助を抱きかかえ、森林へと逃亡の末、真実を話す。蛇姫様=琴姫とは双子の兄妹であることを。
琴姫、どこぞの城の牢屋に閉じ込められていたらしい。
そこはただ兄君を思っている。
菊之助は初めて知った。
どうやら、本多が忠成の迷信深さを利用し、蛇姫を嫁がせんとしたようで、是を知った大久保方では菊之助を誘拐し、身代わりにと変装させ、岡崎へ贈らんとしていたようで。
それで突如20何年前かの出来事をあーだこーだ紹介していたわけである。
菊之助には平九郎が附いている。そう平九郎は自信たっぷりに発言。
妹には誰が附いているのか。
一応、お春というのが附いているようだが・・・
どうなっているか、具体的には判らない。
果たして助けられるかどうか。
真相を知った今、妹が為、父が為に自ら身代わりになり、鏡を取り戻さんとする。
雷の鳴る中、「岡崎へ参る!」と言ひ出す琴姫。
俄然菊之助に会いたくなったようで。
平九郎、雷雨の中、岡崎へと向かっている。
「岡崎へ --」
「岡崎へ --」
「岡崎へ --」
茲はマルサンっぽい表し方。
菊之助は、偽蛇姫となり、駕籠に乗り、岡崎へ。
怒涛の幕切れ。
一体、この後、
みんなはどうなってしまうのか!!!
6.6点。
:木村恵吾
続・蛇姫道中 (モノクロ) BBB
監督 木村恵吾 、丸根賛太郎
構成 伊藤大輔
原案 川口松太郎
音楽 飯田三郎
脚本 依田義賢 、木村恵吾
キャスト(役名)は以下のとおり。
大河内伝次郎(田辺平九郎)
長谷川一夫(瀬川菊之助)
→それほどには活躍せず、実際には伝次郎が主役みたいなものである。
山田五十鈴(琴姫)
京マチ子(お時)
渡辺篤(藤次)
阿部九州男(川勝伝蔵)
柳家金語楼(金助)
横山エンタツ(白雲斎)
坂東好太郎(本多勝秋);何故、大友柳太郎と間違えられているのだろうか。扱い悪すぎ・・・
→どうやら最後の方で姿を見せるようだ。
杉山昌三九(永瀬十郎)
藤井貢(佐伯隼人)
香川良介(大久保忠成)
東山千栄子(笹尾)
楠木繁夫(島吉)
美ち奴(小きん)
伊達三郎(藤原弥兵衛)
上田吉二郎(山村喜左衛門)
夏川大二郎(左之助)
光岡龍三郎(秋田甚八)
荒木忍 (岡部内膳)
遠山満 (長兵衛)
蛇姫様についてあれこれ語る左之助一行。前回の続きとは思えないのんびりした始まり方。
蛇姫の噂を本格的に初め、「その蛇姫様とは」とナレーションが怒鳴りだし、前回の復習に入る。
冒頭を素直に前回の続きにしないのはマルサンマジックか。
復習に入るわけだが、これが「仮面ライダーBlack」なみに長い、長い。
長いぞ、をい!
12分もしてどうすんねん、あほ。
60分中。
まじない師安井頌栄がいづれかの子供を捨てよと忠成に告げ、あーだこーだと事件が広まったわけで。
この復習の最後により、あの3名とお時も岡崎へ行ったようであるのが判る。
相変わらず左之助一行はのんびりしている。
平九郎、いつしか、そこの酒場にて居眠りしてやがる。
そこでは山田一平を名乗っている。捕えられ掛けたとき、笛が鳴り、皆そちらへ。
一平平九郎、さっと宿屋へと急行。
「銭が無い」と主人に告げ、刀を換金してもらう。
主人は気遣うが、このご時世、刀は迂闊に使えないんですよ、GHQの圧力があって!
・・・だと思ふ。
竹の刀をせっせせっせと。
竹の刀・・・竹刀を拵えているようで。
主人、「刀と言うのはピカッと光っていた方が見栄えが」と助言。
銀紙を貼ってみてはと提案。
ここらのやり取りはマルサンっぽい。
町は蛇姫の話題にてもちきりになりつつあった。
そこで「待ってました!」とばかりに島吉と小きんが登場。
お前らはどうでもええねん!!
一平、ふと矢場へ。お時が駆け込んできたからね。
ゥエ?何と、お時、そこの矢場に勤めていたようで。
入る意味ないやん。
「私が何故怖いんだい!逃げるんだい!」と問い詰める。
平九郎、冷静になり、銭のことをあーだこーだと言い訳すると、
「銭が欲しくて岡崎へ来たんじゃない!」
どうにも気持ちが理解できない平九郎。
「このわからずや!頓珍漢のデクノボー!!」
好き勝手に罵倒せられる。
それでも何のことか判らない平九郎。
それを諷刺するかの如く、小きんの唄が挿入せられる。
やがて蛇姫が二人いるとの噂が左之助の耳元に入る。
榎本ってのが目撃した?!
琴姫のいる城の裏にて、追ってと思しき侍が待ち伏せ・・・
岡崎では、誰かが鏡を盗んだとかで大騒ぎ。
そこに白装束が!!夜桜とか呼ばれている。
翌朝、町中、ゴミが散乱。看板が敗れ落ちている。
「二度の大地震だってこんなに酷くはなかったぞ」なんて巧い言ひ回しを披露して見せる町人。
夜桜は逃げたことになっている。
宿屋にお時が。
主人に先生は居るか尋ねるも、そこでは山田一平を名乗っており、主人はわからない。
お時、堂々と忍び寄り、平九郎の居る部屋へ。
鏡とごぼんさつを手に入れたと言ひ、早速渡した。惚れたしるしだとか。
をいをい、平九郎、無反応やないけ。
左之助一行が慌てふためている。愈々明日は蛇姫様が到着するとき。
主人、下足札を然りと勘違いして更なる騒ぎ。
双子の兄妹、どこぞの山の麓の対照的な位置に居た。
お互いがお互いを呼んでみせる。
その夜、夜桜を追う一行と夜桜が壮絶の立ち回りを繰り広げる。
宿屋の主人、竹刀が折れないかどうか頗る心配。銀紙が既に剥がれかけているとかで益々心配。
ありゃ、落し物をしてしまった。それを誰かに捕られる・・・
翌日、勝秋の元にて、笹尾、面会を翌日に延期するよう頼む。
そのときは平静で、夜に立腹。
をい、もうばれたのかよ!!!
鼓の音のする中、菊之助、隼人と一騎討ち。途中で逃げ出されてしまう。
翌日、白雲斎一行と出会う。バリバリの関西弁の白雲斎。リアリティなさすぎやろ。
気違い扱いになってしまった。この扱いは巧み。
菊之助、完全に蛇姫様になりきっている。勝秋本人にはまだばれてしないようだ。
勝秋、至極ご機嫌である。
菊之助は寡黙を通す。
白雲斎一行、未だ入り口で戸惑ってんかい。
木下藤吉郎を知らんのかい、あほ。
どうやら某かの武士になりきるよう策を練っていたようだが、何の役を充てられていたか忘れてしまい、混乱している模様。
荒木又右衛門とかテキトーな英雄の名前を行ってみせ、呆気なく怪しまれ、囚われる。
その瞬間、平九郎が参上。
・・・勝秋、やがて気付く。
あっさりとばらし、「立派な女形になったものだ」と自画自賛。
裏手にて平九郎が大暴れ。
鏡は5万両にて買い取った?!
それは手許には無し。
勝秋、あっさりと負けを認める。女形を女と間違えたのが屈辱だったか。
隼人、裏で拳銃自殺をした模様。
平九郎、忠成のところへ。
まじない師安井のところに鏡を持っていって頭をそれで思い切り引っぱたき、鏡を割る。
安井、気絶。
忠成、「鏡は割れても余は生きてる!!」と感嘆。
菊之助と琴姫、あっさりと再会。太陽が差す。喜びのしるしだ。
この二人、双子にするには似ていないが、女形に扮する一夫の顔立ちは弄り次第により、似ているように思えてくるやも知れない。
一夫と五十鈴を双子に見立てさせるというのは一種の挑戦とも取れる。
菊之助は平九郎とお時のもとへ。
琴姫は城側へ。
お互いが健在で居るのを知ったらそれで充分だったようで。
あっさりとサヨナラして終わり。
本編は40分強といったところだが、のんびりしたパートと怒涛のパートが入り混じっており、全体としては緊迫感が溢れるようには作られていよう。何とか濃い一本にはなっている。
これを125分間ぶっ通しで観るのは際どい所やも知れない。
白雲斎一行、全く役に立っていないのが頼もしいというのか。
門番にてずっと押し問答しているのには笑った。
役割分担をきっちりこなせないそのさま、「黄門と弥次喜多」でもそうだったっけ。
平九郎、お時の思いは結局どうしたのだろうか。
6.63点。
:木村恵吾
麗人 (無声) A
元は18巻で現存フィルムは119分。
恐らく6巻分が逸失しているのであろう。
言わば性典映画のはしりみたいな存在。
監督 島津保次郎
原作 佐藤紅録
撮影 桑原昴
脚本 村上徳三郎
キャスト(役名)は以下のとおり。
栗島すみ子(水原鞆子)
→「ともこ」と読む。蒲田はこの「鞆」という文字が好みだったようである。
岩田祐吉(七郎)
→鞆子の兄。父ではないことに注意。
二葉かほる(お崎)
→同・母。
高峰秀子(岩夫);男装
→鞆子の生んだ子。髪が立って男すぎる。
奈良真養(浅野正樹)
→黒津より学資を貢いでもらっている苦学生。
山内光(小坂)
藤野秀夫(黒津専三)
→新政会総務。代議士の顔もある。
鈴木歌子(志保子)
八雲恵美子(百合子)
花岡菊子(桃子)
→百合子の妹。
岡村文子(林虎子)
東栄子 (女中お玉);東映子
宮島健一(松原)
小林十九二(里見)
岡田宗太郎、渡辺篤(紳士)
→ナベアツは上司のおだて役。
新井淳(先生)
伊達里子(照子)
→里見の遊び仲間。
谷崎龍子(高子)
野寺正一(八兵衛)
高尾光子(その娘お駒)
河村黎吉(六蔵)
吉村秀也(作兵衛)
木村健児(上郷)
小藤田正一(太一)
懸秀介(和尚)
武田春郎(大鷲)
ノンクレのキャスト(役名)は以下のとおり。
坂本武 (郵便配達人)
龍田静枝?(鈴木)
校庭の女子篭球風景から始まる。
鞆子を麻雀に誘う照子。
浅野のところだと退屈していようから丁度良いのではと来た。
里見兄を連れてくるのだとか。本院はモガ気取り。
そこへ篭球を終えた集団が廊下にどっと押し寄せる。
虎子、普通部の人気者なのだとか。
そこに虎子、照子を「不良モボの人気者」と突込んでくる。婦権問題に関心があるのだとか。
照子はさっぱり興味なし。
じっと虎子の熱弁を聴く鞆子。
そんなわけで日曜日。6月6日。
婦権問題演説会を採るか麻雀を採るか。
裏手では女学生の行進する姿が。
どちらへ向かうと言うのか。
まあ、そこの女学生の行動に流されるでしょうな。
アパートの呼び鈴を鳴らす。行き着く先は・・・麻雀やな。
そんなところで演説なんて起こりえない。
いざ、浅野家へ。浅野、怪訝そうな顔つき。
どうやら里見も照子も来ていない模様。
「直に見えましょう」とのことだった。
麻雀の気配だなんて全然無い。
照子、里見と共にドライブしていた。
どうもドライブに夢中でマージャンのことは頭に無い模様。
秒針は絶え間なく回り続ける。
どうにも心細い鞆子。余りに心細く、帰らんとする。
服を掴んだ浅野、一瞬物凄い目つきをしてみせる。
余りに驚き慌てて家を出んとするも、鍵が開かないようでどうにもならない。
鞆子、奥の部屋にて好き勝手に喰われてしまう。
その部屋の後ろの様子にて恐怖を醸し出してみせる。
草原にて、一人寝込む鞆子。傍らで、野良猫の喧嘩があった。
それに起こされる。
「生きよう!」と一言呟き、浅野のところへ。
そこには照子と里見が来ていた。
鞆子、ずっと不在だとかで行方不明状態になっているそうな。
浅野、心配そうに声をかけ、「謝罪します。どんな刑罰でも受けます」
鞆子に罪は無い。
いきなりプロポーズの鞆子。
それについては及び腰。当然鞆子は困る。
「私は生きねば!母や兄のために!」
浅野、自身の真相を話し始める。
く、黒津の娘と結婚の約束ぅ??!!!
これを断ると浅野は希望を絶たれるとか。
当然鞆子は立腹、どこか復習を誓ったかのごとき眼差しを向け、立ち去った。
それから暫く月日は流れ、鞆子は不遇の赤子を産み、所謂シングルマザーとなっていた。
鞆子、赤子を七郎の所へ預けるのだった。
寂しさに呉れる。その赤子が岩夫だったのである。
郵便配達人が暫く気の利かない応対をして笑わせる。
五ヶ年の歳月が流れ、か細い母の手にも軽かった岩夫の体が太い叔父の腕にさえ抱き抱えられなくなったとか。それがデコの男装姿である岩夫。
丁度荷車の上のほう、稲の山の上に乗っかっていた。
その後方から紳士3名が。浅野と専三とその秘書だった。
この村民の土地買収を目論んでいる模様。
乗馬の浅野をからかう岩夫。それが実父とも知らずに。
ターンして地主を七郎に訊く浅野。
茲は村全体の土地なのだとか。
それならばということで、村長を訊く。上郷勘七だとか。
それを耳にするとあっさりと立ち去る。これから浅野は帝劇だとか。
鞆子、話の弾む黒津一家の車とすれ違う。
どうやら共に帝劇行きらしい。
浅野夫妻の居る所へ鞆子が突撃。はっとする浅野。
バンドラを名乗り、ダンスの相手に躍り出る。
バックのトロンボーン吹きが豪い荒っぽい。
桃子、専三の家にどぎまぎしている。
浅野は鞆子と組んだダンスのひと時にどぎまぎ。
鞆子、どうにも起き上がれない。
夕べのショーの風景が次々と思い浮かぶ。朧げな様を表すためにクルクル回転。
次第に割る酔いして小坂の世話になったのが判明。
それで小坂は傍に居たわけだ。
小阪、無事を知るとあっさり帰宅。入れ替わりで浅野が訪れる。
押されてばかりで実に情けない有様。
そこへ「本当に幸福にしてくださる?!」と鞆子が誘惑にかけてきた。
村では、境内の所で村民が大騒ぎ。
村長が東京へ逃げたというのだ。土地を売ったらしい。
「地所は上郷のものでも上だけはこっちのもんだ!」と強気の村民。
和尚ならば判る??!!!そいつは「おぬしらのもんじゃ」
上だけ云々は義理人情のもので法律が介入すると事情は・・・とこられた。
頼りにならないようで、会社に赴かんとすると、合法なので無謀ぢゃという。七郎が何とかすると申し出て、辞退は収拾。
村民が帰ると、早速会社の者が。追っかける村民。岩夫はメンコで太一と遊んでいた。
七郎が赴く途中、虎子が演説している現場に遭遇した。
七郎、鞆子のことを思っていたのか、鞆子のパートへ移る。すっかり娼婦と化している模様。
パトロンがそこにやってくる。もう10時でもあるのを指摘すると、パトロンは速やかに退散。
鈴木が訪ねてくる。夫に逃げられたばかりだとか。「男が悪い」と鞆子。100円を恵んでやる。
「あんたは真面目に苦労、こっちは不真面目に苦労」
婦権問題を身を以て思い知る。
ご機嫌な黒津一家とは対照的に村では買収が進む。
ふと、お駒と出会う七郎。芸者に売られると嘆く。
八兵衛のところへ掛け合いに行く七郎。「さっぱりしただ」なんて言ってやがる。
田圃を取られた今、娘を売るしか道は無い。お上はかまってくれないし。
「泥棒を片っ端から叩っ切るか、飢え死にするか」
年寄りなので、体が利かず、飢え死にを選んだ。
お駒は七郎が何とかするというのだが。外では村民と会社が争いを繰り広げていた。会社の者が竹槍で突かれたとかで大騒ぎ。七郎、何となく見当が附いた模様。
自宅にて。馬を売ろうか考えている七郎。
ふと、虎子の姿を思い出し、「警察で訊けば」
外に出てみる。そこでは、六蔵が追っかけられているところだった。七郎、虎子のところを訪れ、鞆子の行方を訊いていた。どうにもならない様子。
今は六蔵のことで精一杯じゃけんね。
心当たりを突如思い出す虎子。外は雨。
傘が一つしかないらしく、相々傘状態に。
黒津家へ向かっていたのだ。
鞆子、宴会に出席していた。パトロンと化していたのだ。それで百合子は出席を止められた模様。
虎子と七郎、その現場にやってきた。虎子とばったりの鞆子。こりゃやばいと七郎を引き返させる虎子。
夜は虎子のところで世話になる。
村に戻ると、お駒が売られ、八兵衛が首を吊ったとかで騒いでいる。
続いて六蔵の話が。
これおまえ、「今日もまたかくてありなん」やないけ、あほ。
おんなじ田舎での出来事やし。
和尚、六蔵を匿った罪で警察へ連行。六蔵は今うどん屋に立てこもって大食いをしていた。巡査を待ち伏せ。
ありゃ、呆気なくお縄を頂戴。八兵衛の自殺が余程ショックやったようで。
鞆子、すっかり浅野の愛人と化す。岩夫と太一、ゴルフ場にて鞆子と鉢合わせ。鞆子、岩夫を実子とも知らずに・・・
七郎もそこに居た。七郎、乗馬中の浅野に詰め寄る。懸命に取り払う浅野、じっとしがみつく七郎。
余りにも観ていられず、思わず止めに入る鞆子。
七郎、鞆子が妾であると知って案の定激怒。こうなることがわかっているから鞆子は帰るきっかけを失っていたわけだ。
怒る七郎を制止する岩夫。岩夫、実母だとは知らない。
小阪、桃子の絵を描いていた。そこへ鞆子が乗り込んできて突然のプロポーズ。
桃子の存在に気付くと、「今のはお芝居よ」と大盤振る舞い。
鞆子、結婚か絶交かを浅野に迫る。豪く極端なる選択をさせる。どちらも為しえそうにない。
七郎、虎子と共に歩く。
「他人のために働いているような気がしない」との一言に一発やられたかのような七郎。
鞆子、浅野のところに母と岩夫を連れてきた。
母を名乗ると途端に怖がる岩夫。
浅野に岩夫が実子であるのを継げる。そこで結婚か絶交かを迫る。凄まじく大胆。
裏ではっとしていた小坂。
思わず割り込んできて鞆子にプロポーズ。「いいえ、いけません」と頑なに拒否。桃子と結ばれるよう鞆子は望んでいた。小坂としては、桃子は妹としての存在なのだと言う。
百合子、岩夫を引き取ることを提唱。喰われた真相を話す鞆子。そこへ七郎が。岩夫を奪い取る。
「悪い奴でも何でも浅野は岩夫の父です!」
一瞬呆然とするも、結局は岩夫に奪われる。
それからというもの、馬主となり、ファニーガールを可愛がる。
百合子、家出。秘書を連れてだった。
目的地へ着くと、「東京へ帰ろう」
汽車が無いと言われると、「夜通し車で」
競馬にて。状態は良重ではなかった。
ファニーガ・・・もとい、モンナシが勝って小坂との結婚を決意。勝つか負けるか、どちらにするか悩み、、、かつかまけるかは意思決定の動機付けでしかなかったのであろう。
宴会が派手に行われた。
百合子、家に帰ると、専三が収監との知らせを聞く。救うのは浅野しか居らず、離婚できないとこられた。
六蔵の裁判が始まる。
村民が大集合。検察は死刑を求め、ザワザワ。
浅野邸では、浅野が帰って来たとかで百合子が怒る。
六蔵、情状酌量の余地アリとして懲役一年執行猶予に年。
裁判長斯く諭す。曰く、「他の手段があるはず」と。
傍聴席も六蔵も涙。皆、人間村万歳を斉唱。
虎子によると、会社側の不法の点が情状酌量に繋がったのだとか。
第二戦とは??
浅野の会社への殴り込みだった。人間村の集団が街中を闊歩する。桃子がやってきて、百合子の置手紙を見せる。
呆然とし、自棄になる浅野。人間村の連中が来たとなると、「待たせておけ!」
なんと裏口を伝って逃走。
必死の逃避行。すっかりボサボサ頭となり、鞆子の所へ。
「僕はやはりあなたと結婚すべきだった」
百合子の置手紙を見せる。鞆子、それがどうしたとでも言わんばかり。
「こうなるのを待ってたのです。おわかり?!」
警察を呼びに出る鞆子。そのとき、浅野、「子供のことを頼みます」と告げた。
警察が駆けつける最中、銃声が。
・・・手遅れだった。
警察が引き返すと小坂がやってくる。
鞆子、とんでもないことを言ひだす。
「今日限り別れます。岩夫と共に田舎へ帰ります。浅野の墓を守らねば!」
鞆子、どうにも桃子のことが気になるようで、最後にそれを告げて去った。
人間村では。
六蔵が元気に働き、虎子は七郎の女房になり、、、
鞆子は岩夫と浅野の墓参り。そこに百合子もやってきた。
二人は共に浅野の浅はかさの被害を受けたようなもの。
視界には、生き生きと農作業に励む人間村の人々の姿があった。
伝説を謳われる栗島すみ子主演作の一つ。
性典映画であるが、当然検閲対策から相当無理した見せ方になっている。
全体的に雨が降りっぱなしで、注視しないことには気づきにくい。
すみ子の妖しさはぴか一で、浅野をふと魅せるには打ってつけ。妖しき麗姿は劣悪なる映像の中でも立派に冴える。
二人きりになったときのふと魅せられるその心の隙が今回の大事件を引き起こしてしまい、それは一生かかっても解決し得ない問題となった。
貞操を穢されたことで、女の側は一生問題となることが、ラストを通じて切実に訴えられる。
充分見捨てても良いはずなのに敢えて浅野の墓を守らんと小坂との婚約の機会を強引に見逃すという一連の行動は実に古風そのもの。
鞆子の苦悩を人間村の土地買収問題に絡めて描くというのは島津のお手の物。
複数の話を一度に見せて鮮やかに処理して行き、そこから全体のテーマを炙り出さんとしてみせる。
村の解決した姿を通じていつまでも解決しない麗人の苦悩が浮き彫りになる。
「三等重役」河村のレイちゃんは素朴な村民を好演。粗暴で不器用な様がヒシヒシと伝わってきて素直に泣ける。「伊豆の娘たち」でも然ることながら、このふと見せる庶民風情は実に鮮やかで飾り気が無く、作られた感じがしてこない。
岩夫の物分りの良すぎなところが気に掛かる。
結婚か絶縁かを浅野邸にて大胆に迫り、岩夫の居る所で過去を洗いざらいにぶちまけ、それでいながら岩夫が「おかあちゃん!」と呼んで七郎の怒りを止めんとするのはどうにも賢すぎる。
岩夫の葛藤をもう少し膨らませととは思った。
幼き岩夫に鞆子の貞操問題は伝わらないということなのだろうか。
上述のとおり、これは6巻分が抜け落ちているらしい。
ひょっとすると、所々フィルムが腐ってしまったのやもしれず、場面のつなぎ方が不自然な箇所が幾つかあった。
7点。
:八雲恵美子
愛よ人類と共にあれ (無声) AAA
伝説の俳優・上山草人のハリウッド帰還を記念して製作せられたものらしい。
何とこれ、183分あるというのだ。
元々は前後篇に分かれる構成で、「日本篇」と「米国篇」があったそうだが、どこがどう分かれているのか、現在は不明なる状況に在る。
日本篇は14巻、米国篇は6巻。
ひょっとすると、日本篇は130分強で、米国篇は50分強、合わせて183分だった可能性も充分に考えられる。
米国篇のOPが欠落しているだけなのだろうか。
本編が欠落せずに無事に残っていることは、非常にあり難い事であり、欠落映画の多すぎる島津保次郎作品としては実に喜ばしきことである。
それは、公開当時は全く流行らなかったということを意味するのだが。。。
早速検証してみよう。
監督 島津保次郎
原作 村上徳三郎;長編脚色を得意とした人物で、ここでもその手腕が如何なく発揮せられている。ここでは原作者としての出向となっている。
助手 豊田四郎、吉村公三郎、鈴木文雄、新井勝治、畔柳勝治
撮影 桑原昴、長井信一
其協力 三浦光男、寺尾清、日向清光、藤井慎一、小倉金弥、田中武三、松永喜市
脚本 伏見晁
キャスト(役名)は以下のとおり。
上山草人(山口鋼吉)
岡田時彦(長男修)
→ちょび髭が特徴。父・鋼吉の知性(狡賢さ、守銭奴の一面)を受け継いだと言われている。
光喜三子(その妻不二子)
→桜と似通っていてどちらがどうだかわかりにくい。操の方が老けて見える有様。父の精悍さ(意地っ張り)を受け継いだといわれる。
河村黎吉(松山陽一)
→山口の会社の重役を務めている。いつか乗っ取りたい模様らしく、所々黎吉ならではの怪しげで悪に満ちた眼差しをしている点に注目。
吉川満子(妻操・鋼吉の長女)
→どうやら修や雄とは異母姉に当たるらしい。特にその二人には兄弟愛は無い。
高峰秀子(息子泰夫);茲では男装子役として登場していることに注目。観ていると、やはり他の子役には無い天性のオーラを感じさせる。妙な色っぽさが少年っぽい可愛らしさを引き立てている。流石は天下の名優だ。
奈良真養(関谷謙太郎)
龍田静枝(その妻桜・鋼吉の次女)
→関谷とは後に結ばれることになる。
田中絹代(雄の情婦真弓)
鈴木伝明(鋼吉の次男雄)
藤野秀夫(工場長岡田)
野寺正一(庶務係片山)
水島亮太郎(技師春日)
小林十九二(工場の従業員兼田)
宮島健一(技師山本)
花岡菊子(芸者君勇)
→妾というわけではなく、一応置屋の遊び相手という軽い関係の模様。
筑波雪子(鋼吉の妾);ハリウッドから帰還した草人と競演の機会が出来、脇役部門ではこれが名誉の出演となった模様である。ちょっぴり白粉姿に色気が加わった模様。顔の下部がやや八雲恵美子に似てきたような、そうでもないような。
→こちらは本格的に妾の模様。
斎藤達雄(歯医者渋川)
渡辺篤(秘書吉田)
→落ちこぼれの秘書。関谷や松山にいつも蔑まれるがごとく、弄られている。この吉田の振舞い、ひょっとすると大杉漣の演ずる三枚目キャラクターに似ているかもね。北野武監督が大杉を好んで起用する背景にはそうした事情が絡んでいるのかとふと考えた(渡辺篤は武のお気に入り俳優の一人)。
新井淳(番頭)
→主に証取所に居る。山口の忠実なる僕。
岩田祐吉(銀行頭取)
武田春郎(重役)
→新会社設立記念宴会場の席にて登場。
岡田宗太郎(運転手)
古谷久雄(キャパシティ・ホールのボーイ)
河原侃二(刑事)
小藤田正一(雄の幼時)
葛城文子(雄の母)
→早くに没。
飯田蝶子(雄が喧嘩を起こすバーのマダム)
マック・スウェイン(ドクター)
クリス・マーティン(農夫)
ノンクレのキャスト(役名)は以下のとおり。
近衛秀明 (証取所の立会人&新会社設立記念宴会場の客)
→冒頭にふと登場。
高松栄子 (妾の勤める置屋の女将)
高田稔? (新会社設立記念宴会場の受付)
二葉かほる(その宴会場にて披露せられる舞の邦楽伴奏者の一人)
突貫小僧?(レストランに居る子供)
日守新一 (雄が喧嘩を起こすバーのボーイ&操の訪れる宝石店の店員)
大山健二 (アトランティックホールの客)
鈴木歌子 (関谷夫妻の仲人)
→結婚披露宴の席にて一瞬の登場。
山口勇 (結婚披露宴の受付)
→「もう誰も愛さない」の森みたいな存在。大柄で強面。
港の場面から。
丁度修が妻の不二子を連れて帰ってくるところ。
港では、家族たちが温かく迎えている。それとは裏腹に、修は何か無愛想。
父が来ていないと、おろおろする関谷に松山。
どうやら新会社設立のパーティがあり、来ていないらしい。
修、面白くなさげ。何を思っているのか。
証取所の風景。何故か360度回転。その他、仕事場、ラッシュ現場等を360度回転。
姦しさを360度回転にて示しているらしい。
山口社長。電話応対に忙しそう。証取所にて応対する番頭。
山口邸にて。
修、父のことは何も思っていないらしい。
家族よりも、事業と女の方が大事なのだろうとあきれ果てている。
冒頭、妙に無表情だったのはその所為なのやもしれない。
父が迎えに来ないことに怒りを感ずる反面、それはいつものことと諦めている思いもある。
あらら、山口、芸者君勇にも電話している模様。どうなってるの??仕事の電話じゃなかったのかよ。
そう、ちゃっかりと君勇のところにもでんわをかけていたのである。
片方は仕事、片方は女遊び用の電話。
二つの電話を備えており、常時やらかしているのであろう。
この風景から、修の呆れる気持ちが判明することになる。相当の女好きの模様。
吉田、ふと、修のことを告げる。丁度君勇との電話の最中だった。山口、受話器を放さずに怒ってしまい、君勇はてんやわんや。
暫くして訳を話すと、君勇、
「叱られたのかと思っちゃった」とあっさり返答。それだけかよ。
山口、女遊びは君勇だけではなかった。あの妾にも電話を掛けていた。
ちゃんと夜に面会する約束をしていた。
関谷と松山が帰る所、雄・真弓夫妻が登場。
銭を渡す松山。何を企んでいるのか。
レストランに赴く雄夫妻。
そこに山口と妾のカップルが鉢合わせ。
山口、何とかして雄には挨拶せんとしたが、雄、妙にそっけない対応。
雄によると、実母の居ない家には帰りたく無いらしい。
結局碌な対応が出来ずに退散する山口鋼吉。
ふと、仲睦まじき母子を目にする。何をや思う、鋼吉。
新会社設立パーティ。
あらら、鋼吉、其処にも来ていないのかよ。
どうやら妾との付き合いを優先した模様。
何だかこれじゃあ、女目当ての助平爺みたいだ。
宴会場にててんやわんやの関谷、松山、吉田。
丁度、舞が披露せられていたときのこと。てんやわんやの3名をよそに、宴会場は舞にて盛り上がっている。
重役に突っ込まれる松山。
「歯痛ですか?」と、黎吉らしい悪戯っぽい表情を掠めて言い訳する松山。
君勇、不機嫌そう。自分のところには来ないからね。
鋼吉、妾のもとにも来ていなかったらしく、やうやく妾に迎え入れられる有様。
吉田、関谷に「何のための秘書だ」と莫迦にせられている。
そういわれてもネェ、連絡がつかないんだから。
余りに好き勝手にいじくられるもので、宴会場にて「今に見てろ」と悔しそうに宣戦布告してみせる吉田。まさかその思いがあんな形で成就するとはね。
ふと、結婚式の風景を掠める吉田。
茲は突如吉田と花嫁の結婚披露宴の場面に立ち代ることもあり、わかりにくいが、これは吉田の想像上の風景であることに注意。台詞にて示さず、わざわざ風景を持ってくるところは、恐らく、学会、、、もとい、島津保次郎の写実主義の精神の表れによるところと考えられる。
この映画、余りスポークンタイトルが登場しない。
酷い場面になると、殆どが風景にて現さんとしている。
やはり島津の精神の表れなのであろう。
長尺なのは、島津ならではで、天変地異や宴会風景を丁寧に撮るためであろう。
その関係で、本編は短くなる。適度に処理するには省略の技巧が要せられる。
そんなわけで、長尺でありつつ、更に内容は濃くなっていることに注意。
所々不自然なつながりになっていると思しきところは、自らの頭にて考えねばならない余白。考えながら映画を探求してゆくのである。
松山家では、晩餐会が開かれていた。真ん中の席にあの泰夫が座っている。
茲にも鋼吉は帰ってこない。すっかり冷めた様子の修。「性格だから」とのこと。
一応、鋼吉、宴会場にも訪れた模様。重役に、「歯痛はいかがですかな」とからかわれている。
君勇から電話があったらしい。可也ご立腹の模様。渋々退散する鋼吉。
山口、結局修には全然会わず、君勇を優先。「倅よりも君を優先したんだ!」として機嫌をとらんとする。もう、相当の女好きであることが窺える。
松山家では、談笑にて何とかやり過ごさんとしていた。泰夫が寂しがることもあって。
雄夫妻、どこぞのバーに訪れていた。
そこにて突如、雄が大暴れ。誰にも止められない。
マダム、おろおろするばかり。
レコードが空しく廻っていることに注目。観客は、そこからレコードが空しく廻り、空しくBGMがかかっていることを想像することを要せられるのである。雰囲気を読まずに陽気なる曲がレコードからかかっているという、対位法の現れであろうか。
床にはガラスの破片が。どうやらそれに刺さったらしく、怪我した模様。
雄、呆気なく警察に連行せられる。
丁度鋼吉が帰宅していたときのこと。山口家も大変だ。
真弓、噂話を耳にして即座に事件現場のバーに急行。
あれこれ事情を聞く。マダム、明石署に居ることを告げる。
鋼吉、妾と遊んでいる。え?帰宅したんじゃなかったんかよ。
雄のことにはお構いなし。
翌朝、自宅にて。
歯科医が訪れていた。「歯痛」ということで。し切りに媚びへつらう歯科医。
吉田は食べ物を食わせる役。何だか鋼吉、やり辛そう。
修、ふと、新聞に目を通す。そこには、関谷と櫻の結婚記事があった。
鋼吉の部屋に入らんとすると、歯科医が出てきて「こん畜生!」と扉を蹴飛ばす仕草をして見せた。
やうやく父との対面を果たす修。この家は自分の家の気がしないのだとか。
修も亦母っ子だったのだろうか。何とも他人行儀に父と接するのだった。
「もう子供じゃないので、毎月銭を貰いにきたくない」とのこと。
単に家に来たく無いだけでは。
修、関谷の結婚記事をみせる。吉田、ショック。
見事に玉砕。あの関谷に結婚の機会を見事に与えてしまったのだから。
雄がやってきた。これもまた余所余所しい。修と会うのが億劫なのか。
雄、喧嘩の一件についてやってきだのだろうか。父、「行き先を改めるならば出してやる」といとこと。
雄、「そんなこと!」と言って出てしまう。じっと見聞きしているだけの修。
雄が拒否するのはどうやら意地の表れだけではなかった模様。
櫻の結婚記事が来た後に、雄兄の不祥事が載るのはまずいというのだ。
それを阻止するために、銭を出して釈放させんと言う魂胆であるわけだ。
修、「そんなことに銭を?」と蔑んでいる。
鋼吉、「学者だって何だって、銭には目が上がらぬ!」と強気の姿勢。雄は別人なんだとさ。
雄、牢獄に閉じ込められる。「父の助けを借りて出所するくらいならば、鑑別所に入った方がましだ!」と叫ぶ。
ふと、幼少期を思い出す。
母が病床に倒れているときのこと。雄、相当の母っこだった模様で、ベソを掻いている。
泣きじゃくる在りし日の雄、そっと母を世話していた。雪の降る夜。
雄、「あんな家へ帰るくらいならば孤児院へ行ったほうがましだ!」
・・・その頃からそんな感じやったんやね。
母、病床にて必死の説得。
「もうあたしゃ生きられない。おまえがあたしの分まで幸せになっておくれ・・・」と言い残し、昇天。
雄、自らの悪癖が直っていないのを恥じたのか。母の遺言を思い出して「何やってんだ」と悔いたか。
そんな時、出所の知らせが。まだ意地を張ってやがる。
「わかっちゃいるけど、やめられない」ってか。
シャバでは、真弓が待っていた。ふと、真弓の手を見つめる雄。
あらら、何と何と、指輪がないではあるまいか。そう、指輪を換金し、幾ばくかは例のバーから借金して保釈金を拵えたというのだ。真弓、「今のままの貴方が良い」と優しく助言。
吉田、何をや企まん。そこに操が泰夫を連れてやってくる。誘われる吉田。乗り気の模様。
山口鋼吉に、山脈計画が。打ち合わせに応ずる岡田。断る鋼吉。面白くなさげの松山。
茲が絶好の機会だと察知するや、途端に乗り気になる鋼吉。
操、どうやら宝石店に寄っていた模様。どうやら関谷夫妻の結婚披露宴にてお洒落する為の道具を買いに来た模様。泰夫は追い出され、犬と遊んでいた。反応の良すぎる犬。思わずその気になる泰夫。そこにふと、雄夫妻が。
犬と遊ぶ雄。微笑む真弓。泰夫、雄の額の傷を気遣う。その優しさが嬉しい雄であった。
泰夫、「何故不良少年なの?」と疑問を投げかける。どうして悪者扱いせられるのか。子供に大人の事情はわかりやしない。ただそっと、泰夫のデコを撫でる雄であった。
そこに鋼吉と妾が。櫻への土産を買いに来たのだとか。
操と吉田、20時にアトランティックホールにてダンスする約束を交わすのであった。
アトランティックホールにて。
どうやら雄、改心の思いをこめてダンスホールのボーイになったようで、真弓はそこのダンサーを務めている。数多の男の相手になる役目だ。
丁度、吉田と踊っていた。
そこに操が登場。本来相手にすべき相手だ。それを雄が捕まえる。泰夫のことを忠告する。あの時、外に放り出していたままだったからね。
逆上する操。
「ぐうたらだろうが、乞食だろうが法は正しい」と反論する雄。
ダンスホールにて暴れる吉田。泥酔状態だ。止めに入る雄。
雄、吉田のボヤキを聞いてやることに。
どうやら、吉田には失恋の悩みがあるらしい。
どうしたのかと思いきや、そう、本日は関谷夫妻の結婚披露宴なのだ。
愈々櫻が関谷に取られるのかと思うと、居ても立っても居られないのであろう。
今、披露宴の準備が進められている。
何と、雄夫妻、着の身着のままで披露宴に駆けつける。
受付に出席の旨を告げると、拙そうな顔をして松山に忠告。
松山が断りの文句を言いに其処へ向かう。
続いて操が。「そんなはしたない服装ではいけません」と嫌味三昧。
雄、「これは誇りの証だ」と反発するも、結局は聞いてもらえず。操には兄弟愛のかけらも無かった。
操の命令により、受付を初めとする守衛軍団に追い出される雄。
以前暴力を振るった前科があること、改心の志をなしたこともあり、そうそう簡単に手は出せない。
エレベータに多数押し込まれ、更には入り口に追い出される。
その間、盛大に披露宴が行われている。
最大の不条理極まりない対位法だ。
鋼吉は勿論出席。おろおろするも、結局は雄のところに赴かず。
真弓、松山らの前で啖呵を切って出て行ってしまう。
操、松山に「あんたは八方美人の一面が玉に瑕」と嫌味を発する。
自宅にて、悔しがる雄。其処を真弓が「弱くても正しい方が」と慰める。
翌日、山脈が映し出される。壮大に伐採せられ、その材木が貨物列車により運ばれ、どこぞの木材工場に運ばれ、製紙か何かの材料として扱われていく。
茲はセミドキュメンタリータッチを思わせる迫真の映像の数々。
岡田、困った表情をしている。自分の見積もりと随分違うというのだ。不正が働いているらしいと技師。疑われた側、「自分で計算せよ」と逆上。仕舞いには喧嘩に。
まさに「ガチンコ!」に於ける信じられない事態。次から次へと野次馬が。喧嘩を愉しそうに見ているのだ。こちらのほうが「信じられない事態」そのもの。
TBS<島津保次郎、島津の勝利。
(こんなところで勝ってどうすんねんって感じだがな。)
松山、関谷に樺太行きを勧める。関谷、新婚旅行をしていないらしく、初めは億劫がる。
「新婚に浮かれている場合じゃない!」と諭され、赴くことに。
こいつら、どこまで守銭奴なんだか。
松山、誰も居ないところで、「八方美人の俺の恐ろしさを見せてやる」とのたまい、高笑い。
どうやら不正は松山の仕業らしい。それをしらない鋼吉ってわけだ。
真弓、鋼吉に金銭援助を求める。それを雄にあっさり見つかり、元の鞘に収まる。
関谷、早速樺太に。色々現場の技師たちに美味しい話を聞かされている。
鋼吉、何だか落ち着かなくなってきた。「関谷みたいな若造には任せて置けない。自らが樺太に」と言うと、面白くなさげな表情をする松山。その冷徹なる眼差しに注目。
工場では、岡田が定職を求められている。責任を一方的に押し付けられているわけだ。
樺太へ本当に向かった鋼吉。何故か妾もついてきていた。
そのとき、またもや信じられない事態が。
山火事発声!
誰かが火を点けたらしく、放火犯と思しき者がトロッコに乗ってにやけつつも見つめている。
次々と倒れ、炎に包まれる材木。
まさに、「ガチンコ!」に勝った、この映画。
・・・何を言いたいかは判るよな。
わざわざ「TV業界は何をやってきたんだ(貴様らの考えているハプニング演出は60年前に完成済み、斬新さなど微塵も無し)?!」と言わなくとも。
この山火事、ドキュメンタリータッチなのだろうか。
本当に燃やしているのだろうか。
「進軍」の攻撃場面が如く、粘り強く火災現場を映してみせる。
他の監督ならばあっさり省略するところ、島津はそれをしない。かくのごとき天変地異等には人一倍力を入れたい考えであることが伝わってくる。
この山火事、鋼吉の野望の崩壊ともとれよう。その崩壊のさまを強調するため、敢えて省略せずにじっくりと映しているとも考えられる。
おろおろする岡田。体はもうボロボロ。
暫くすると、工場事務所にも炎が着ていた。何とかせんとする岡田だが、なんともならない。
山火事の電報は既に鋼吉のところに来ていた。にわかに信じがたい鋼吉。
駅に着くと、号外記事があちらこちらに。
山火事の記事がきっちりと載っていた。
樺太に着くには未だ船を乗り継がねば。
茲で、妾と別れることに。「貴様の来るところじゃない。次の汽車で帰れ」
妾、渋々ながらも港にて鋼吉を見送り、その言葉に従うことにした。
船の中でもうわさにて持ち上がっている。
鋼吉、思わず、「そんなことで参る俺じゃない!!」と発狂。
これ、どこかで観た意地っ張りの表れだな。
いざ、樺太へ。
幾ばくかの焼け跡、家の骨格が残るのみで、見事なまでに何も無い。
羽柴誠三秀吉先生の金ぴか御殿の焼け跡を超越する広大なる焼け野原。
「シムシティ」にてストレス解消とばかりにぶっ壊された街の焼け野原みたい。
岡田、呆然と立ち尽くしていた。やがて斃れる。
バケツに顔を突っ込んで死す。
茲も省略をかまさず、じっくりと焼け跡を映して見せている。
会社では、どうやら松山が知らない間に陰でこそこそと動かしている模様。
鋼吉、帰還。何だか一気に老けた感じ。焼け跡を見てススに遭ったのか。片付けの最中にススだらけになり、何も洗っていないのか、その力も無いのか。
あらゆす物品が差し押さえられていた。自宅も亦差し押さえに遭っている模様。
ふと、外の喧騒を目にする。ススだらけでも意地の張りようは不変。
松山邸にて。
夫妻が談笑。これで愈々鋼吉も終わりだとか。泰夫のことはお構いなし。
ふと、鋼吉がやってきた。色々事情を聞きだし、「これで愈々貴様らとも敵だ!」と宣戦布告。
鋼吉の強気に、松山夫妻はすっかり嘲笑する有様。
泰夫、何故斯くもこじれるのか意味不明の模様。
鋼吉の元に寄り添い、何かを語りかけるも、何も聞いてもらえなかった。
車の中で、ふとつぶやく鋼吉。
「幾ら愛想を振りまいても、他人は他人だ」。
親族さえも赤の他人だというのか。
修もさっぱり取り合わない。何ともあっさりとやり取りを交わす修。
ま、今まで修のことに散々目も暮れなかったわけで、今更助けを求めても「ざまあみろ」で終わるか。
盛者必衰の理が、余りにも無残なる形にて鋼吉を断罪する。
自棄になって置屋へ。
あらら、あの妾が自棄に余所余所しい。どうしたのだろうか。
女将、「今日はあいつは欠席でして」と言い訳。どうにも信じがたい鋼吉。
暫くして、妾の居ると思しき部屋へたどり着く。ふと、障子を開けてみせる。
そこには、あの、落ちこぼれの秘書・吉田の姿が。
あまたの権利書を目にする鋼吉。
どうやら吉田、茲の置屋の権利を買い取り、支配人になった模様。
高らかに勝利宣言をする吉田。為す術もなく、呆然とするのみの鋼吉。
結婚に散々悩み、負けの姿勢をとっていたあの吉田がまさかの大出世。
「いつか見返してやる」と宣戦布告する者は失敗のままに果てるのが世の常のはずだが、それが思わぬところで勝ってしまったという意外性。
慌てて妾の下に向かう。そいつは2-3個左隣の部屋に居た。
障子を開けると、確かに妾が居た。
無言のままに、呆然とする妾。無言の応対の妾。
鋼吉、何を思ったか、「・・・お前が幸せに暮らせるならば、それで良い」と言ってあっさり立ち去る。背中はいかにも寂しそう。妾、無言のままに見送り、立ち尽くす。
鋼吉、自らの女癖の悪さを恥じたか。
妾として自分と関係を有するよりは、正妻として吉田に喰われる方が幸せと考えたか。
あの吉田が、樺太に行っている間にちゃっかり妾を頂戴するとは。
櫻との結婚に破れ、操に愛想を振りまいていたあの男が、いつどうやって妾を。
いつの間にやらボロアパート暮らしに落ちぶれた鋼吉。そこは事務所兼用の模様。
あの番頭が居た。唯一の味方。
そいつもあっさり逃げた。「畜生!!」と鋼吉。
一人暴れる。
その後、「俺は一人だ。たった一人だ」
その様を、傍から真弓がじっと観ていた。
何と言う運命の偶然であろうか。まさか雄夫妻の居るアパートに引越していたとは。
新聞記事の中に、松山と関谷が背任罪にて収容せられるとの記事が。
これにて操と櫻も崩れ去ったろう。泰夫が気がかりではあるが、そんなもの鋼吉の眼中には無い。
一度は自殺を思いとどまるも、それしきにて心は晴れない。
それにて、自分の野望は完全に崩れ去った。
家族をないがしろにし、地位名誉金銭等に命を賭けて来た男の無残な末路。
鋼吉、ガス自殺を実行。グルグルと元栓を回し、ガスをオンにする。
おろおろする真弓。おろおろしすぎだろ。
自分の部屋のガスの元栓を締めるも、意味無いっつーの。
鋼吉の部屋は、臭すぎてとても立ち入れない。
そこに雄が暢気そうに帰還。コントの入り方をしてくる。外は嵐が吹いている。
真弓、父のことを告げると、雄が大慌て。雄も亦戸惑いすぎ。
どうしたかというと、ハロルド・ロイド作戦を敢行。壁を生身で伝って部屋へ突撃ということである。
ガラスを割り、扉を開け、ガスを放出させた。
必死の思いで救出成功。
起き上がった父・鋼吉、曰く、
「俺がお前如きに救われる人間と思ってか?!」と。
一同、コケタ。
何たって、返答が雄のと同じだもの。
「血は争えない」と言うことを示してくれる、隠れた名場面であり、密かに笑える場面だ。
雄、「俺がお前如き人間を救うと思うか」と反論。
寡黙の対峙が続く。
じっと見つめる真弓。
雄、自らの癖が父にあることが嬉しかったのか、次第に説得をしてみせる。
父はまだ心を開かない。
まだまだ開かない。
まっっっったく開く気配が無い。
母の遺言を思い出しかのごとく、涙をためて説得に入る雄。
次第に涙を零してみせる。
全く父は心を開く気配が無い。
とどめを真弓がまとめる。
「二人とももう許しあっているじゃありませんか」ととどめの一言。やんわりまとめる。
更に、「不幸を本当に知らないと本当の幸福は味わえません」と続ける。
弱者は決して負け犬に果てない。今まで散々言ってきた、「弱者は強者」に通ずるものがあり、ひいては、「格好良きは格好悪し。格好悪きこそ格好良けれ」という例の格言にも繋がるのだ。
思わず抱きかかえる雄に父。
最後の栄冠を勝ち取ったのは、不良として虐げられてきた雄だった。
雄が寸前で心を開き、見事に栄冠を勝ち取った。
そこに地位名誉金銭等なんて要らないのだ。
父・鋼吉、抱きかかえるときに足腰が弱っていたのか、単に倒れそうな勢いで、それを雄がフォローしているような感じであった。
それから暫くして。あれから二年経ったか。
父・鋼吉、雄夫妻に連れられてアメリカに来ていた。
すっかり年老いている。
それと共に、刺々しき心がすっかり丸くなっている。
父のやさしく振舞う姿は、優しさを取り戻したという安堵の現われの他に、年をとって丸くなったという哀しさをも含んでいる。腰もすっかり弱り、頭も真っ白に。
なんと、茲から英語による台詞となる。日本語字幕が無い。
上山草人御大のハリウッドにて鍛えてきた洋風の味わいを提供せんとする島津の悪戯心の表れであろうか。
器用に会話をする御大の姿を見ていると、ハリウッドの成果を観客に見せつけているかのようである。
日本語字幕が無いのは参ったが、「Mayumi is great.Congratulation!!」であったか、その一言は感動した。特に「Congratulation」の一言。
そう、おめでたであることを祝福しているのだ。
真弓は妊娠で家にて休養をとっていた。
どうやら無事出産したらしく、農民たちが祝福しているのだ。
丁度、雄は乗馬していた。すっかりウエスタン・カウボーイの風格が身に附いているかのよう。嬉しそうに見上げる鋼吉。
ゆりかごには、愛しの赤子が居る。
雄、鋼吉に父になる喜びを語る。
結婚の喜びもあろう。この真弓、もとは情婦だった。正式の夫妻ではなかった(説明簡略化のため、筆者は初めから「夫妻」と記しているが)。赤子を授かったということは、今正に夫妻として結ばれたのであろう。
最後、黒人女中が祝いの印に「ハレルヤ」を弾いてくれる。
楽譜が映し出されるところに注意(読譜の必要は無い。「ハレルヤ」みたいな賛美歌を弾くのかと理解できれば充分)。
農民もわんさか集まっている。一緒になって謳っている。
犬がわんさかはしゃいでいる。この犬の操りは、草人御大がチャップリンから取得した動物操りの技巧を意識しているのだろうか。兎に角間が絶妙。踊り方が最高。本当に「ハレルヤ」の大合唱が耳元にて聞こえてきそうな勢い。
父のゆりかごを動かす様も可愛らしい。先ほどまで守銭奴だったとは思えない。
希望に輝く朝日を映し出し、お仕舞い。
やけに相関関係の激しいホームドラマがため、劇中に登場人物の紹介を、山口家に限って行ったほうが良いとも思った。一応、OPにて役名が載せられており、そこで把握させる設計なのだろうが、どうしても役名よりも出演者の方に目が言ってしまうからねぇ、OPのクレジットは。
鋼吉の女好きは相当酷かった模様。
それが、異母姉弟を生み出すに至ったのであろう。異母の悲惨さは、操と雄の折り合いの悪さを見ていれば判る。
子供が自棄に余所余所しいのは、家族を棄てた鋼吉への怨念なのであろう。
女好きの一面を垣間見られるところは他にもある。
誰にも指摘せられていないところを述べておこう。
関谷の結婚披露宴の場面である。
そこで、落ち着きなき鋼吉の姿が映し出されよう。その鋼吉、周りの出席者の女性たちの胸元だとか首筋だとかアクセサリーだとかに目を反らせては居なかろうか。このそわそわした姿にも鋼吉の女好きのほど、助平ぶりが窺える。
島津の野心が感ぜられる箇所でもある。「~八重ちゃん」にて、八重子とその友人悦子がセーラー服を着替えるシーンの「あんたの胸ステキね」という台詞があったろう。当初の「おっぱい」がカットされ「胸」に差し替えられた曰くつきの箇所。とにかく恥ずかしくて一生忘れられない台詞だったとせられてをり、その野心の精神は茲にも開花せられていることに注目しておきたい。
事業、家族、憎悪、不倫、従業員、、、夫々のドラマを並行して器用に展開させるつくりはまさに島津のお得意技。
最後は是如何。
題名の通りの終わり方と言おうか。愛の欠缺はやがては赤い絆の崩壊をも生み出すと言ったところか。救われているのは雄夫妻。後はほぼ絶望的。
吉田の勝ち誇る様は憎たらしく、あの泰夫が両親の不祥事に巻き込まれて傷心しているのは辛いところであるが、そんな不幸を気にしては、やってゆけない。
盛者必衰の理が何とも鮮やかに描かれている。
黒人が女中で居たが、これは人種差別を気にしない山口家の懐の広さを描いているのだろうか。地位名誉等に囚われない、心の温かさを売りにした山口家がそこにある。一軒屋で、嘗ての豪邸に較べると実にそっけないが、家庭自体はそれまでのどの家庭よりも温かく、賑やかさに溢れている。黒人女中を見て、ふとそんなことを考えてみた。
俳優陣に於いては、上山草人の度迫力が先ず見もの。
印象をそっくりそのまま変えてしまうその手腕はお見事であろう。
単に老けてみせる仕草をするに果てない。空気ごと取り替えてしまうのだ。
男装子役が、少年の可愛らしさを引き立てるのに一役買っているのにも驚かされる。これはデコちゃんだからこそなせる業なのやも知れないが。
虚彦の「若者よ~」に匹敵する大作だと思うのだが、何故か同年度キネマ旬報ベストには姿を見せておらず、巷では「単なるオールスター映画」「島津に合わないメロドラマ」などと貶められ、随分と悪評だったようである。
オールスターと雖も、それは鋼吉の子息二人ぐらいであり、所謂アイドル映画では断じて無い。
代表作ではないやも知れないが、貴重なる島津の無声映画として注目に値する一本とは確実に断じ得るものと確信してやまない。
筆者個人では、出ないと思っていた筑波御大が出演していたことが嬉しかった。
ラスト、無言のままに鋼吉を見送るあの切なさに色気は正に神懸り。
9.1点。
女優田中絹代の軌跡
ちょっと出ました三角野郎 (無声) A
全4巻構成で、完全に残っているようだ。
題名は上州地方の八木節の「またも出ました三角野郎」を捩っているらしい。
初め観る限りはちょっと判りにくいのだが、八木節大会を巡って山下村と海辺村が対立しているという構図のようである。
取敢えず観て行きたい。
監督 佐々木恒次郎;佐々木啓祐
助監督 沼沢勇夫、島田昇
脚色 吉田百助
原作 小川正
撮影 猪飼助太郎
撮影補助 藤田英次郎 斎藤正夫
タイトル 堀川善一
キャスト(役名)は以下のとおり。
坂本武 (山下村村長)
大国一郎 (三吉)
→山下村に於ける八木節の名手。
酒井啓之輔 (長老)
若林広雄 (海辺村親分)
関時男 (唯介)
→片目男。
小倉繁 (留公)
→本名・留五郎。「留」という渾名にて親しまれている。八木節の名手として村の誇りとなっている。
花岡菊子 (お花)
→海辺村のマスコット。
渡辺篤 (放浪者・太市)
田圃の風景から始まる。
その後、八木節がどうたらこうたら。
山下村にて、八木節の演奏が行われていた。村人が夢中になっている。
三吉が歌い手で、周りの人々にお辞儀してから舞台の真ん中に立って八木節を唄う。
歌詞がダラダラと表示せられる。
暫くして太市の姿が。どうやら放浪者でふと茲へ辿り着いたらしい。
八木節の打楽器の音に一々はっとする。トラウマだというのか。ともかくはっとしている。
村長の命令により、遣いの者が門を開ける。
太市はばったり倒れていたのだが、遣いの者はそれには用は無いらしく、シカト状態。
コイツの目当ては偶々通りかかった赤子を抱える婦女らしい。
太市、後で気付いてそこへちょっかいに。全然相手にしてもらえない。
子供の食べ物をこっそりと食べる。実にこっそりと。
子供に気付かれると、あっと驚くどころか、開き直って堂々と「ぱくっ!」
子供の呼びかけで太市は犯人扱いに。
皆、一斉に追っかける。「海辺村の間者だ!!」スパイに間違えられたってわけだな。
どうやら海辺村とは相当険悪なようで。
八木節は未だ続いていた。
村長の隣に居る長老、空気を読むのが巧すぎだろ。
一気に皆は臨戦態勢へ。
屋根の上に居る太市と一斉放水&物の投げ飛ばし。
子供の食べ物を食べただけで皆出動かい。そんな大袈裟なことって。
倉庫に逃げだとなると、村長の命令のもとに藁を放り出す。
村民に藁がかぶさって効果があらへんがな。
三吉、藁を被った男二人の紐に首が絡まり、ひきづられるままに線路の上へ。
前を見ると汽車が走っており、慌てて下へ飛び降りる。直後に汽車は快走。
走りすぎると、なななななんと、三吉、線路の上に居た。真ん中にてしゃがみこんでおり、真上を汽車が挟み込むように通ったってわけだ。
藁男二名は見事転落して小舟の上へ。船乗り、可哀想に弾みで落ちてしまい、大慌てで避難。
小舟は藁男二名が支配。
駆けつけてきた村民、藁男のどちらかが太市と思い込んだか、一斉射撃を繰り広げる。
舟の上には太市ともう一人、海辺村の唯介が居た。どうやら海辺村の面子が一名混ざっていたらしい。
唯介のちょっかいが愉しい。
テキトーに浜辺へ。っておまえらいつの間に海へ出てたんだ??
太市、唯介にどつかれて脳震盪を起こした模様。
唯介が目をつけたのは西洋料理・朝日軒。
そこには八木節競演会事務所も併設せられていた。海辺村のである。
そこでは山下村打倒会議が行われていた。留次郎が希望の歌い手らしい。
留、ある希望に燃えていた。親分が、この勝負に勝ったらお花と結ばせても良いと言っている。
太市、お花の世話になり、食事を貰っていた。
太市、惚れたような。見ほれていると、お花、お茶を零して小火傷沙汰に。
親分一行、蟹料理を欲する。進んで蟹を調達するお花。
そのとき、飛んだ災難が。なななななんと、蟹が太市の咽喉に挟まったとかで大騒ぎ。
お花に気を取られてるからそないなんのや。留、瞳を真ん中に吸い寄せたりの大混乱。
太市、飯を握り、留に見せる。
そのとき、大きな鋏が留の口元に。
何とかあっさりと蟹が咽喉元から離れ、一安心かと思いきや、鋏で舌が切れたとかで大騒ぎ。
お花、大喜び。是にてお手柄とばかりにお花の心を射止める
・・・わけにはゆかない。
留、混乱したままである。
意志によると、15日の大会までには到底間に合わないらしい。
太市は暢気に部屋掃除。兎角お花に惚れているようで、何とか心を奪いたいと考えている。
お花、「末永くこの土地に居て貴方の好きなお内儀さんを貰って暮らして」と声を掛ける。
陰では留五郎のことで悩んでいる。
その姿を見て何か名案が思いついたらしい太市。
お花は真剣に悩んでいる。
気を紛らわせるよう頼まれ、「よし、私が何とかやりませう!」
早速実行。「皆さん!ただ今非常に面白いことを致しまーーす!」ってFUJIWARAの原西か、あほ。
皆引いとるやんけ。途中で座布団に足を引掛け、留の方に飛ばすもので、却って現場は混乱。
親分に大目玉を喰らう。
治る可能性は益々低まり、太市、ショボーン。
親分の提案により、岩屋観音へお参りすることに。
お花、留と一緒になれるようお祈りしている。ひとまず先に足を運んでいたようだ。
そこへ太市が「皆が呼んでますよ」と声を掛けに来る。
喜んでもらえたが、心を射止めるには至らず。
太市、海を背景に思わず告白。お花、「まあ、もう良い人が見つかったの?!」
そういう意味ちゃうねん!!太市、「いや、あのその」と言っている間にお花があーだこーだ。
暫くデレデレしていたら、親分たちがやってきたやないけ、おまえー。
「へへーん」とにやけていたら、思い切り詰め寄られ、「何をしていた!!!」
太市、「あの、ちょっと」を繰り返し、親分、「ちょっと何だ!!」と聞き返し、
「ちょっとちょっと、ちょっとう出ました三角野郎が」と続ける。
親分、心を打たれてどないすんねん。太市、ちょいと唄を披露。そう、八木節である。
皆乗りに乗り出し、親分は感心。お花も微笑む。
親分、「・・・決めた!」とポーズを決める。
そこからすんなり大会の日へワープするという小気味の良さ。
ちょっと振り返ってみる。
冒頭、太市が八木節の打楽器の音に過剰反応していたのは元々八木節に精通していることの現れだったのだ。
題名は詰まる所何か。
ちょっとした思い付きにより飛び出した思わぬ巧妙といった意味合いか。
大会の日。三吉と太市が八木節対決。三吉、ちょっと発声練習とお口直し。
いざ本番。海辺村親分、真剣なる眼差し。
太市は流麗さを、三吉は大声にて勝負しているような印象。
太市、予想外の大健闘。三吉は声帯を潰して大暴走。
価値と決まると親分は真剣に大喜び。
栄光の夜。
太市を囲んで宴の最中。留は一人悔しがる。非常に面白くない。痛さもあろう。
親分、「望みは何だ。早速叶えてやろう」
太市、お花を連れんとノコノコとお花の居ると思しき部屋に。
いざそこに入ると、留、自殺しかけ?!
懸命に制止するお花。
それを観てしまった太市。絶句だ。はっとするのみ。
お花、「たとひ貴方の舌が悪しとも、私ゃ金輪際貴方のものですわ!」
どうする太市。「たとひ貴方が勝たずとも、私ゃ貴方に負けてます」ハナから太市は眼中に無し。
太市、ショボーンと引き下がる。
いきなり海辺にて何かを拝む場面になる。これは賢い遣り方であろう。
宴会にて綺麗事を吐く場面を丁寧に紹介する必要は無い。
ショボーンと引き下がり、親分に何を言うかは至極明白。一々表していては予定調和に感ずるのみ。
海辺にて拝みポーズを決めていたら、大波がやってきて慌てて逃げる。
いつまで経っても格好つけられないようで。
帰らんとする太市をお花と留が呼び止める。
「何も聞いてくださるな」
留、手話にて懸命に感謝の弁を伝える。
「私は元から旅烏」と寂しげに答える太市。
お花としては恩人として居てもらいたい。沢山尽くしたいと考えている。
そう尽くすならば結ばれてほしいところ。
太市としてはお花の心を奪えないのが永久に辛い。このまま海辺村に居ては自らの思いは吹っ切れない。
「私は用済み。さようなら。二人仲良くお暮らしください」
一応は元気良く手を振って茲を去っても何ら支障は無いフリをするのであった。
トンネルに入らんと歩いていたら石につまずき、大慌て。をはり。
流石は啓祐監督。新派悲恋風情を決して忘れない。
本領が発揮せられるのはやはり悲恋風情ということか。
お花はフィクション・ドラマとしては珍しいと思われる鈍感女。
普通は女は敏感に男の気持ちを察知する所だが、茲ではいつまで経っても気付かず、太市を気にしつつも留にゾッコンになっている。
鈍感者ということで花岡菊子はお見事の起用と言えよう。
啓祐監督はルーティンをなぞる作風である。
茲では、喜劇的要素にチャップリンのルーティンをなぞっているらしい。
子供の食べ物をこそ泥というのがそれで、筆者は初めはさっぱり気付かなかった。
そういや、女へ気持ちを伝えるのが下手というのはチャップリン臭いといえば然りだが、チャップリンは大抵は好きな人を獲得するパターンへと持ち込み、この太市像とは些か異なるように思われる。
ナベアツってあんまりチャップリンと似通ってないしなー。
哀愁と言うよりは、優柔不断で助平さが前面に出ているような。
音楽が、八木節が多く用いられる。
本来ならばパートトーキーでもよいやもしれないところ、敢えてかどうかは不明だが、そのような設計にはしていない。
随所に映像表現を駆使することで音を創出せんという工夫が垣間見られるのが愉しい。
ドタバタ描写は意外に華やかであり、落ち着きもある。
7.14点。